雪舟と応挙
22年目の結婚記念日――サントリー美術館の「毛利家の至宝」展へ――
雪舟の「四季山水図(山水長巻)」と応挙の「鯉魚図」に打たれた――
前者には附属展示される二人の模写(伝雲谷等顔と狩野古信)があるが――全く話にならない――
雪舟のそれは画面の沼沢河川奇岩嶺峰のあらゆる「彼方」が、正に無限遠へと広がる「玄妙な自然」となる。奔放に打たれたかに見える水際のアシの葉影は、少し後退して見ると、実にリアルな群がりの厚みを持って豊かに現出し、その葉擦れの音さえ聴こえてくるようだ。最後の、手前の薄い城壁の線が、奥の濃い城壁の線へと、まるで近距離のカメラ・フォーカスを奥に移したように映像的に変化するのは、驚天動地以外の何ものでもない(妻は定規で引いたようないい加減な描き方だとと言ったが、これは全く分かってない)。
後者は三幅――
左右の博物学的で有機的な肌のぬめりさえ感じさせる描き方もさるもの乍ら、中央の瀧を登る鯉の、何本もの滝の流れ落ちる水を透かした魚体の描き方の素晴らしさは、正に「お化け応挙」の眩暈夢幻の如くである。しかしよく見ればそれは、確かな実際の我々の、鯉の瀧登りそのものの正しい網膜像でもあるという凄さを見せつける。大胆な白い線条の配置は、水を正しく哲学していると言える。この哲学的流体なら――確かに鯉は龍と――なる。
ある意味、地味な企画展なればこそ、ゆっくりと鑑賞出来るのも嬉しい。お薦めである――後は六本木のお好きなお洒落なレストランで食事をすれば――実に精神と欲望のバランスには――丁度、よい――
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追伸:「近距離のカメラ・フォーカスを奥に移したように映像的