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2012/06/29

耳嚢 巻之四 金子かたり取し者の事

全然関係ない話だが、明日、記事を書くと(最大の記事99日を越える結果)、このブログ・トップ・ページからは「教師」としての僕の書き込みが消えることになる。――感慨は――ある――



 金子かたり取し者の事

 

 番町邊と哉らん、須藤文左衞門とかいひし、武家などの仕送り用人をしてなま才覺の男有しが、去年とか去々年(をととし)とか師走の廿五六日に、金子貮拾兩かたりとられ、今に其無念を散ぜんと所々心掛て尋歩行(たづねありく)由、我が元へ來る人の語りける故、其子細を尋問しに、右文左衞門、池の端の料理茶屋とか又は藥屋とかへよりて休みしに、人品尤らしき老僧これも腰を懸て休居(やすみゐ)たりしが、文左衞門へ向ひ相應の挨拶して世上の咄などせし上、文左衞門が仕送りなどするといへる咄しを聞き、我等知る人に、多分も無之(これなし)といへども金子五六百兩、丈夫成(なる)處へ貸し附申度(つけまうしたく)、利分は五分位にて利安にいたし可申迚(まうすべしとて)賴まれぬれど、先方を氣遣ひ丈夫の處に無之(これなく)候ては世話も難成と咄しけるを文左衞門聞て大に喜び、何卒借出し相(あひ)ならば、此節の事ゆへ丈夫に御世話可申とて賴ければ、老僧も喜び候躰(てい)にて、左候はゞ明日金主へ引合せ可申(まうすべき)間此茶屋へ來給へ、某(それがし)は何寺と申(まうす)小寺の住職也と語りけるゆへ、酒抔呑て暫く咄合(はなしあひ)の上、金子は右の通至(とほりいたつ)て丈夫成所を第一にし氣遣ひ被申候(まうされさふらふ)間、其手段なくては安堵いたすまじ、不思議に御身と昨日よりの知る人なれ共、數年の馴染の趣に金主へは可申談(まうしだんずべく)、金銀の取遣(とりや)りも今始てのふりに無之(これなく)、不斷取(とり)やりいたし候樣に仕成(しなし)可申、御身も金子二三十兩程持參あれ、我等より用立候を返し被申候殊(まうされさふらふこと)に致(いたし)、則(すなはち)御身の證文を返すなど、彼金主の前にて取引を致し見せ可申と、かたく約束して立別れしが、文左衞門は能き才覺出來しと、翌日早々彼茶屋へ至りければ、未(いまだ)右出家は不來(きたらず)、茶屋にては右出家申付候由にて、精進料理を取交(とりまぜ)何か急度(きつと)したる獻立などして待(まつ)由なれば、文左衞門も暫(しばらく)待居たりしが、彼出家昨日に彌增(いやまし)に立派の裝束をして、隱居躰(てい)の禪門勿躰(もったい)ら敷(しき)侍兩人同道にて來り、酒など出し料理抔も丁寧に出して、扨御咄の人に引合可申由にて文左衞門を引合、右は兄弟同樣の數年の馴染にて、丈夫成(なる)所は我等同樣に思召るべしと彼禪門侍へ申談(まうしだんじ)、盃など取遣りして彼禪門文左衞門に向ひて、老僧の御世話故相違もあるまじ、金子の儀は千兩程は御用立(だつ)べし、去(さり)ながら利分も安く可致(いたすべく)候へ共、間違候ては申分難成(まうしわけなりがたき)筋も候と語りし故、文左衞門も色々辯を振ひ、丈夫ら敷(しき)事申並(まうしなら)べけるに、老僧も文左衞門も數年私とは金子の取遣りもいたし、いかにも丈夫の所は受合候事也、既に文左衞門より今日も金子取遣いたし候といへる故、文左衞門も懷中より金子を出し、先達ての金子三拾兩今日取上(とりあげ)候趣にて老僧へ渡せば、則(すなはち)懷中より手形を取出し文左衞門へ渡し、ケ樣(かやう)の事に候間御案じ被成間敷(なされまじ)と申ければ、禪門も侍も大に悦び候躰(てい)にて、右千金にても五百金にても明日手形等丈夫にいたし、禪門の宅は深川何所(どこそこ)にて候間御越可有之(おこしこれあるべし)と念に念を入、酒數獻(すこん)に及びて文左衞門餘程沈醉の折から、禪門も侍も立歸りぬる躰(てい)故、風與(ふと)文左衝門心附て老僧を宿の亭主へ尋ければ、是も今少し已前立歸りぬ、今日の仕出し入用何程(いかほど)は文左衞門より可拂(はらふべし)と被申置候(まうしおかれし)由故、大に驚きながらよもや僞もあるまじと彼是(かれこれ)渡り合(あひ)、茶屋の入用をも拂ひて、さて翌日右禪門の宅深川を尋しに、右躰(てい)の名前も無之(これなく)、老僧の寺所は暫隔(しばらくへだつ)る所なれども、前々日書付等に致し渡しぬる故、飛脚を立て問合(とひあは)すれど左樣の寺は無之(これなき)由故、文左衞門足摺(あしずり)して無念骨髓に徹し、三人の内何れか不捕(とらへざる)事は有べからずと、今以(もつて)尋るよし。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:神隠しの少女の家は番町、本話の詐欺にひっかかる主人公も番町辺りに住まい、地所繋がり。それにしても共犯三人(もしかすると主人公の用人について調べ上げるための登場しない詐欺団の探索方もいるかも知れない)のその衣裳から筋立てに至るまで、興行二日の巧妙な劇場型詐欺である。綿密な計画なしには無理で、酒に軽い眠り薬なんども仕込まれたかも知れぬ。「オレオレ詐欺」なんぞより手が込んでいて、欺される須藤文左衛門なる主人公が如何にも成り上がりの厭らしさを感じさせ、同情も生じず、不謹慎乍ら、極めて面白いダマしなのだ。僕は差し詰め、この禪門辺りを演(や)りたいね!

・「仕送り用人」財政担当の用人。武士である。

・「なま才覺」猿知恵。なまじ(中途半端で軽薄なこと)の才覚の略。

・「池の端の料理茶屋とか又は藥屋とかへ」の「藥屋」は不審。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版では『池の端料理茶屋とか又茶屋とかへ』で、こちらを採る。

・「不思議に御身と昨日よりの知る人なれ共」「昨日」はママ。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版も『きのふ』。訳では「今日」とした。

・「急度(きつと)したる獻立」ルビは底本のもの。立派な、精進料理の定式に則った献立。

・「禪門」俗人のままで剃髪し仏門に入った男子を言う。「禅定門」「入道」に同じい。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 金子を騙り取った者どもの事

 

 番町辺りに住んでおるらしい須藤文左衛門とか申す、武家なんどの仕送り用人を務めて御座った、生半可な才覚のくせに、それに驕って御座った男があった。

 去年で御座ったか――いや、一昨年で御座ったやも知れぬ――ある年の師走の二十五、六日のこと、金子二十両を騙(だま)し取られて、その怒り、冷めやらず、今にきっと、その無念を晴らさんものと、あちこちを執拗(しゅうね)く尋ね歩いておる由――我が元へしばしば参る御仁が語った故、その子細を尋ねたところ――

 

……この文左衛門、ある時、池の端の茶屋だか料理茶屋だかへ立ち寄って休んで御座った折りから、人品卑しからぬ老僧が一人、やはり、彼のそばに腰かけて休んでおった。文左衛門に、相応の僧侶らしい挨拶を致いて世間話なんど致いた上、彼が仕送り用人をしておるという話を聞くと、その老僧、徐ろに、

「……我らの知れる御仁に……まあ、大した額にては御座らねど……金子五、六百両ほどを……しっかりとした心配なきところに貸し付け致したき由にて……利率は五分程度の割安にてよきに計ろうて欲しい……とのことにて……拙僧に適当なる相手を捜いて呉れようと頼まれて御座ったれど……その御仁、特に取り引き相手の素性を……その……気に致いて御座っての……ともかくも、しっかりとした心配なきところにて御座らねば、うっかり世話も致しかぬるので御座るのじゃ……」

と話す。これを聴いた文左衛門は、大いに喜んで、

「なにとぞ!――もし、それ、拙者へ貸し出だいて下さらば――昨今の拙者の仕送りのこれこれの実績から推して頂きましても――しっかりと全く心配なきよう、お世話申し上ぐること、御約束致しましょう! どうか、一つ!」

と懇請すれば、老僧も喜べる体(てい)にて、

「そうとなれば、明日にでも早速、金主(かねぬし)へ引き合わせ致しますれば、この茶屋へお越し下されい。某(それがし)は用向きのあって、江戸へ出て参っておりますが、▲▲にある●●寺と申す小(ち)さき寺の住職にて御座る。」

と一決、酒など酌み交わし、暫く話し合(お)うて御座った。その話の中で、

「……くどいようじゃが、先方は『金子は何より、しっかりとした心配なきところを第一に』とお気遣いになっておられ、そこがツボじゃ……先方は、何ぞの信頼の証しなくしては安堵致しますまい。……そこでじゃ……不可思議なる縁にて、御身とは今日よりの知人にて御座るが……ここは一つ、二人は、もう数年の馴染みであるといった風に……金主へはそれとのう、知らせるに若くは御座らぬ。……金銀の遣り取りに就きても、今初めての様子にては、これ、御座らず……普段より、頻繁に遣り取り致いて御座るように見せ申すがよろしかろうぞ。……そこでじゃ……一つここは、御身も金子二、三十両程を明日(みょにち)ご持参あって、それ、我らより用立て申し上げて御座ったことに致し、たまたまその場にてお返し下すったという風に見せ金致し……そこで拙僧は、やおら懐より御身の証文を出だいて返す……なんどとかの慎重なる金主の前にて、我らが昵懇にして相応の信用の取引を致いて御座るかのように見せ申すが……これ、よろしかろうと存ずるのじゃが、どうじゃ……?」

などと申す僧の言葉に、いちいち尤もなれば、文左衛門も請け合い、台詞なんどの綿密な取り決めを致し、別れた。

 帰る道すがら、文左衛門、笑みを浮かべ、

「いや、何とうまい具合に、仕送りの金蔓を、手繰り寄せたわい!」

と独りごちて御座った。――

 翌日、文左衛門、気が急いて早々に茶店を訪れて見たが、老僧は未だ来ておらなんだ。が、茶屋にては、

「お坊さまより申し遣って御座います。」

との由にて、精進料理を取り交ぜた、いかにも立派なる献立の下ごしらえやら準備やら致いて待っておるとの話し。

 かくして文左衛門も暫く待って御座ったところ、かの老僧が、昨日に、いや勝る、立派なる僧装束を纏い、更に隠居風の禪門と、何やら如何にも勿体ぶった侍の両人同道の上、現れた。

 用意した酒なんどが出だされ、料理なども丁寧に運ばれて参った。

 老僧は、

「――さて、昨日お話し申した御仁にお引き合わせ申そうぞ。――こちらは、拙僧、兄弟同様に親しくして御座るところの、数年の馴染みなる、須藤文左衛門殿じゃ。――しっかりとした心配なきところは――これ、拙僧同様――と、思召さるるがよかろうぞ。」

と禪門と侍に向かって語り、四人して献杯致いた。

 暫くすると、かの禅門が文左衛門に向かって、

「――老僧のお世話故、間違いも御座りますまい。――金子の儀は――そうさ、上限千両ほどまでならば即座に御用立て出来ましょう。……さりながら……いや、利率のことも格段に安く致そうとは思うて御座る……が……額も額、利分も格安なればこそ……万が一、間違いが御座っては……これ、困って御座るのじゃ……。」

と、案の定、シブりが入った。

 文左衛門も昨今の彼の実績なんどを交えて弁を奮い、己れが、正にしっかりとした心配なきところなることを滔々と述べ立て、老僧もまた、これに口添えして、

「文左衛門殿とは、もう数年に亙って金子の遣り取りを致し、いかにもしっかりとした心配なきところなること、これ、神仏に誓って請け合い申そうぞ。――そうじゃ――たまたまのことなるが――文左衛門殿とは、今日も別の一件にて金子の取引を致すことと相い成って御座るのじゃった。……ちょいと失礼仕る……」

とのこと故、文左衛門も懐中より用意しておいた金子をとり出だいて、

「……我らが別件の仕事なれば、御両人には失礼仕る――老師よ、こちらは先日御用立て戴きまして御座る金子三十両――本日、耳を揃えて返上仕りまする――。」

と、老僧へ渡す。――

 老僧は、金子を確かめると、懐中より手形を取り出いて、文左衛門へ渡いた。――

「……御両人には失礼仕った――なれど――御覧の通りの仕儀にて御座れば――御心配、これ、御無用で御座る!――」

と言えば、禅門も侍も、これ、大いに喜悦の体(てい)にて、

「――相い安堵致いて御座る!――安心の上は、千両にても五百両にても――明日にでも漏れなき定式の手形なんどを用意の上――拙者の屋敷は深川■■にて御座れば――お越し下されい!」

との確約――流石に慎重なる御仁と見えて、念には念を入れて――手形の書き方・日付・禪門の名の漢字の表記と言った細々したことまで打ち合わせて――そうこうする内……献杯も数十献に及び、文左衛門はすっかり酔っぱろうて、ふっと――居眠り致いて御座った。……

 ……ふと、気づいて回りを見渡せば――座敷には――誰も――おらぬ。

 座の様子を見れば禅門も侍も、とうに立ち帰った様子。

 文左衛門、思わず、非礼の不覚と思うたが……

『いや……それにしても……かの老僧は何処(いずこ)へ参ったものか?』

と茶屋亭主に訊ねてみる。すると、

「今少し前にお帰りになられました。帰り際、今日の宴席仕出しの分は文左衛門さまよりお支払が御座る、と申し置かれて御座いました。」

文左衛門は、己れの泥酔の失態に加えて、宴会費用の意想外の出費に大いに驚き慌てて御座ったが、

「――かの商談、よもや、偽りなんどということは、これ、あるまいて。」

と――かの仕出し代金は予想以上の高額で御座った故――茶屋主人と交渉の上、何とか代金をも支払い終えて帰った。

 さて翌日、文左衛門は揚々と、かの禪門の深川■■にあるという邸宅を訪ねてみた。

……が……

……昨日、本人の言葉によって認(したた)めて御座った、かの禪門の厳かなる名(なあ)は……

……誰(たれ)ひとり、知る者とて――ない――。

……文左衛門は真っ青になった……

……かの老僧の住まうという寺は、これ、江戸より外れた遠地に御座ったれども――三日前に話を決した折り、本人が備忘のためと『▲▲の●●寺住持××』なんどと書付けに致いたものを渡されて御座ったれば――飛脚を立て、その地の『▲▲の●●寺住持××』へ問い合わせてみた……

……ところが……

……そのような寺は、これ――ない――との返事……

 文左衛門は地団駄踏み、その無念、骨髄に徹し、

「……サ、三人のうち、いずれか一人でも、つ、つ、ツカマエまえずにャ、お、おカねえッ!!!」

と、今以て、捜し廻っておるとの、ことじゃ。

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