芥川龍之介 江南游記 十七 天平と靈巖と(中) 「モンモンケ」注追加 「モンモンケ」は「メンメンク」ではないか?
芥川龍之介の「江南游記」の「十七 天平と靈巖と(中)」に呪文のように現われる一読忘れ難い「モンモンケ」の注を追加した。
・「モンモンケ」を諸注は「問問咯」とし、江蘇方言で「お尋ねします」の意とする。因みに現代中国語の拼音(ピンイン)で示すと“wènwènlo”(ウェンウェンロ)であろう。岩波の倉石武四郎著「中国語辞典」に依るならば、この場合の「咯」“lo”は、現代中国語の文末の完了の助詞「了」“le”等を投げやりに発音した時に、「言うまでもなくそうだ!」という語気を示す、とある。しかしだとすれば、「お尋ねします」という丁寧語訳は少々おかしい。「訊ねん!」「教えてくんな!」「教えてくれ!」でよいのではないか? 江蘇方言にお詳しい方の御教授を乞う。【以下、二〇二一年七月五日追記】私の教え子で中国在住のT.S.君が、同僚で、蘇州語と近い上海語を母語とする日本語も話せる女性に、この場面の「モンモンケ」について意見を聴いて呉れた。その彼女の答えを以下に転載しておく。『私、蘇州方言は詳しくないけど……。そういう場合、上海方言では「メンメンク」と言います。そうですねえ、少し丁寧な感じ。日本語で言うと「ちょっと聞きたいのですが……」と言うかなあ。はい? 漢字で書くと? 「問問看」と書きます。北京語と同じく「看」には「調べてみる」「確認してみる」というニュアンスが込められています。きっと蘇州でも同じだと思いますよ。』。これだと丁寧語訳もおかしくない。この女性の「メンメンク」こそが芥川龍之介の言う「モンモンケ」の正体ではあるまいか? ここまで書いたところで、アップ・トゥ・デイトに再びさっき、T.S.君から追伸が舞い込んだ。『先生、島津四十起氏は上海語を話したのでしょうから、部下の女の子の言う「問問看」がそのまま当てはまるのであって、蘇州語を気にする必要はなかったのです。私は勘違いしていました。なお、今手元にある「江南遊記」中国語版(陳豪訳、新世界出版社)にも、この部分に「上海話‘問問看’」という注があります。』――これで「モンモンケ」の呪文は解けた。
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