生物學講話 丘淺次郎 三 餌を作るもの~(3)
[葉切り蟻]
なほ南アフリカの熱帶地方には菌を培養する蟻がある。これは「葉切り蟻」と呼ぶ大形の蟻で、巣は地面の下につくるが、つねに多數で出歩いて樹に登り、鋭い顎で葉を嚙み切り、一疋毎に一枚の葉を啣へて、恰も日傘でもさした如き體裁で巣にに歸つて來る。この事は誰にも著しく目に觸れるから、昔は何のためかと大なる疑問であつたが、その後の周到な研究の結果によると、この菓は巣に持ち歸られてから更に他の働蟻によつて極めて細かく嚙み碎かれ、菌を栽培するための肥料に用ゐられることが明に知れた。巣には處々に直徑三〇糎以上もある大きな部屋があつて、細い隧道で互に連絡し、部屋の内では働噺蟻が葉を嚙み碎いたもので畑を作り、そこへ一種の菌を繁殖させる。この菌は松蕈・椎蕈などと同じやうな傘の出來る類であるが、蟻の巣の内では働蟻が始終世話して居るので、傘狀にはならず、たゞ細い絲の如き根ばかりが茂つて、蟻の餌となるのである。
[蟻の菌畠]
[やぶちゃん注:「菌」読んでゆけば一目瞭然であるが、これは「きのこ」と読む。
「葉切り蟻」ハチ目ハチ亜目有剣下目スズメバチ上科アリ科
Atta 属と Acromyrmex 属に含まれる四十七種の総称。主に中南米の熱帯雨林に棲息する。ウィキの「アリ」の「ハキリアリ」に拠れば、『集団で行列を組んで様々な種類の木の葉を円く切り取って巣の中へ運び、その葉で培養した菌類を主食にし、培養に使った葉の残りカス等も決まった場所に投棄する。人間以外で農業を行うという珍しい蟻だが、近年では農作物を荒らす害虫として現地では駆除の対象になっている』とする。コロ氏のHP「多様性を求めての旅」の「ハキリアリ」に拠れば、『ハキリアリが育てている菌はアリタケと呼ばれ、ハキリアリの巣の中以外ではみつからない。ではどのような関係かというと、ハキリアリはアリタケの胞子から栄養分である糖分をもらっている。またアリタケは他の菌などの外敵からハキリアリに守ってもらっているという相互共生(mutualism)が成り立っているのだ』。『ハキリアリの巣は成熟した場合だと八〇〇万匹もいると、英語のWIKIに書かれてあったが、普通に書かれているものから判断すると一〇〇万~二〇〇万匹くらいではないだろうか?』『ハキリアリはアブラムシも巣の中に飼っている。これも相互共生という形で形成されている。アブラムシは植物の汁を吸って、糖分が含まれている汁を分泌する。これがハキリアリにとって餌になる。そしてハキリアリはアブラムシを天敵から守ると同時に、アブラムシの卵を巣の中で育てることもする。このため、ハキリアリは農園だけでなく牧場も経営するなどと表現する場合がある』と記しておられる(アラビア数字を漢数字に代えた)。引用元は以下、ハキリアリ社会の階級構造とそれぞれの習性を語り、写真もある。最後にコロ氏は『なんど観察していてもあきない不思議な生き物である。ハキリアリはおなじ熱帯雨林でみれる軍隊アリと比べると狂暴性が低いし、近くで観察していても危害を加えてこないので、みていてとても愛らしい生き物である。』と述べておられる。一読をお奨めする。なお、このアリタケは菌界担子菌門菌蕈亜門真正担子菌綱ハラタケ目ハラタケ科
Agaricaceae に属する。]