耳嚢 巻之四 金瘡燒尿の即藥の事
本日より義母の見舞いに参る。随分、御機嫌よう――
*
金瘡燒尿の即藥の事
途中或は差懸り候て、血留(ちどめ)其外藥をもたざりし時、大造(たいさう)の疵はしらず、聊の疵か又燒(やけ)どの愁ひには、靑菜をすりて付るに即效有る事と、坂部能州かたりぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:民間療法三連発。
・「金瘡燒尿の即藥の事」底本には「燒尿」の部分に鈴木氏による『やけど』のルビがある。標題にはルビを振らないことを原則としてきたので、ここに記す。岩波版では長谷川強氏は「金瘡燒尿」には「金瘡(きんそう)・焼尿(やけど)」とルビを振っておられるが、私は後ろを「やけど」と和訓する以上、切り傷を言う「金瘡」は「きんさう(きんそう)」ではなく、「かなきず」若しくは「きりきず」と訓じているように思われる。
・「大造(たいさう)」は底本のルビ。
・「燒(やけ)ど」は底本のルビであるが、これまでのルビは( )で附された鈴木氏によるルビであったのに対し、これは( )がないので、原本のルビと判断される。
・「靑菜」は一般には緑色の葉菜類、カブ・コマツナ・ホウレンソウなどを指すが、狭義にはカブの古名ではある。但し、叙述から緊急時に常にカブがあろうとも思われぬから、広範な食用の緑色葉菜類を指しているように思われる。ネット上では、アオキ・ツワブキ・ビワ・アロエ等の生葉が民間薬として挙げられている。
・「坂部能州」坂部能登守広高。本巻の「蝦蟇の怪の事」に既出。寛政七(一七九五)年に南町奉行となり、同八年には西丸御留守居とある。
■やぶちゃん現代語訳
切り傷・火傷の妙薬の事
外出した際や、何らかの差し障りが御座って、血止め等の薬を所持しておらぬ時には、大きな外傷は例外であるが、ちょっとした傷や、また火傷(やけど)を負って心配な折りには、近くに生えておる青菜などを擦って塗布すると即効があるということを、坂部能登守広高殿が語っておられた。
« ギリヤーク尼ヶ崎 / 東日本大震災追悼「祈りの踊り」 | トップページ | 耳嚢 巻之四 館林領にて古き石槨を掘出せし事 »