芥川龍之介 子供の病氣 附やぶちゃん詳細注 / 「しほむき」とは何か?
「やぶちゃんの電子テクスト:小説・戯曲・評論・随筆・短歌篇」に正字正仮名で芥川龍之介「子供の病氣」(附やぶちゃん詳細注)を公開した。
正字正仮名版はネット上では初、本文の約三倍の僕の詳細注は、マニアックとまではいかないまでも、本作を読んだ若い読者が感ずるであろう、あらゆる疑問点に、可能な限り答えたつもりである。
唯一つ、遂に正体の分らない語句がある。病気の乳児の多加志の額に芥川が唇を押し当てて熱を見るシーン、
『自分は色の惡い多加志の額ひたひへ、そつと脣くちびるを押しつけて見た。額は可也火照かなりほてつてゐた。しほむきもぴくぴく動いてゐた。』
の「しほむき」である。一応、注では、
〇「しほむき」不詳。本来は「汐剥き」「塩剥き」で、アサリ・ハマグリ・バカガイなどを生きている時に剥き身にすること、また、そのものを言うが、「自分は色の惡い多加志の額へ、そつと脣を押しつけて見た。額は可也火照かなりほてつてゐた。しほむきもぴくぴく動いてゐた」という直後の描写からすると、額に唇を当てた際に視界に入る蟀谷(こめかみ)の青筋、静脈のことを言っているか? それとも剥き身の貝に近いというなら唇か? いろいろ調べてみたが、遂に分からない。識者の御教授を乞うものである。
と書いた。まっこと、識者の御教授を乞う――
【二〇一二年一〇月四日追記】「TINA」様という未知の女性の方から、「しほむきについて」と題されたメールを頂戴し、本件の謎を解明し得た。補塡したテクスト注又は当該解明過程を記したブログを御覧になられたい。