庭の閑繻子の蜥蜴と瑠璃の蜂 畑耕一
庭の閑繻子の蜥蜴と瑠璃の蜂
[やぶちゃん注:「閑」は「かん」で閑寂。トカゲの隠喩である「繻子」は「しゆす(しゅす)」と読み、繻子織りの織物のこと。経糸・緯糸が五本以上から構成されるもの。密度が高く地が厚く、柔軟性があって光沢が強い。「瑠璃」は「るり」で、本来は仏教用語。七宝の一。梵語“vairya”の漢音の音写である「吠瑠璃(べいるり)」の略。青色を基調とした宝石。赤・緑・紺・紫色などもあるとされ、ここではハチの隠喩としてその多彩な配色をのそれを想起した方がよい(瑠璃には紫色を帯びた濃い青色を言う瑠璃色という色名、また、宝石や顔料として西洋で古くから用いられてきた鉱物ラピスラズリ(「ラピス」はラテン語の「石」、「ラズリ」はペルシア語の「青」の意。藍青色を呈する数種の鉱物の混合体で、黄鉄鉱が混じっているために磨くと濃い青地に金色の斑点が輝き、別に青金石(せいきんせき)ともいう)の別名でもあるが、これらだと遠目には濃い青にしか見えず、蜂のメタファーとしては今一つ不自然である)。この句、対象のメタファーが面白く効いた畑版『古池や』――閑寂幽邃を色彩で描いた佳品で、何より、声に出して詠んだ際に、その音の絢爛さが、逆に無音に近い情景の静謐さ(音があるとすればそれは蜂の羽音のみである)を引き出す。私はとても好きな句である。]