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2012/09/13

生物學講話 丘淺次郎 四 寄生と共棲 五 共棲~(1)

    五 共 棲

 

 二種の相異なつた生物が、一方は滋養分を吸ひ取られ、他は滋養分を吸ひ取りながら、共同の生活をして居ればこれを寄生と名づけるが、この他に二種の生物が幾分づつか互に利益を交換するためか、或は一方だけが利益を得るために相密著して生活する場合がある。これを共棲と名づける。植物界で最も著しい共棲の例は樹木の幹や、石の表面に附著して居る地衣類であるが、これは人も知る通り菌類と藻類との雜居して居るもので、藻類は有機物を造つて菌類に供給し、菌類は藻類を包んで保護し、兩方から相助けて初めて完全な生活が出來る。しかもその雜居の仕方が極めて親密で、顯微鏡で見なければ菌と藻との識別が出來ぬから、昔は兩方の相合したものを一種の植物と見做して居た。また動物と微細な藻類との共棲は幾らもある。例へば淡水に産する「ヒドラ」には綠色の種類があるが、これは「ヒドラ」の體内に單細胞の緑藻が多數に生活して居るためで、藻類は「ヒドラ」に保護せられ、「ヒドラ」は藻類から幾分か滋養分を得て、雙方から助け合つて居る。

Umenokidake


[地衣の一種 梅の木苔]
 

 

[やぶちゃん図注:「梅の木苔」は子嚢菌門チャシブゴケ菌綱チャシブゴケ目ウメノキゴケ科ウメノキゴケ Parmotrema tinctorum。以下、ウィキウメノキゴケ」より(一部の表記を変えた)。『葉状体は薄く広がって樹木の幹や枝の表面に生える。差し渡しが一〇センチメートル程度のものは珍しくなく、比較的大柄な部類に入る。全体の形は不規則な楕円形だが、これは周囲の状況によって大いに変化する。周囲は丸く波打ち、これは個々には周囲が円形に近いサジ状の裂片に分かれているためである。個々の裂片は幅が約一センチメートル、周辺は丸く滑らかで、縁は基盤からやや浮いている』。『表面は灰色っぽい水色で、全体に滑らかだが、ある程度以上大きいものでは縁からやや内側まではすべすべしているのに対して、それより内側ははっきりとつや消しになっている。これは、その表面に細かい粒状の裂芽が密生するからである』。『裏面は、縁が淡褐色、それより内側の新しい部分は白っぽく、さらにその内側では濃い褐色となり、偽根がまばらに出る』。『日本では、日本海側豪雪地などを除く東北地方以南に分布し、これらの地方の平地では最もありふれた地衣類である。比較的乾燥した場所に生育しやすい。都市部にはないが、田舎では庭先から森林まで見られる。主として樹皮につき、名前(梅の木苔)の通り、ウメにもよく見られる。しかし、他の樹皮にもよく見られる他、岩の上に生えることもあり、石垣などでも見られる。 排気ガスには弱いので都市中心部には少なく、大気汚染の指標とされている』。『成長は比較的早く、裂片一枚がほぼ一年分とのこと。繁殖は主として無性生殖による。上記のように、葉状体の中央表面には裂芽を密生し、主な繁殖はこれによって行われるらしい。周辺部に出ないのは、時間が経たないと作り始めない、ということで、恐らく三年目くらいから作り始めるらしい』。『有性生殖は知られているがあまり行われない。野外で子器を見ることはほとんど無いと言う』。]

[やぶちゃん注:「共棲」生物学に於ける「共生(SymbiosisCommensal)」の概念はこの半世紀で大きく変化をしたと私は思う。まず、共生の三タイプとしてしばしば語られる、ここで語られてゆくところの、●同一の空間又は時間を共有している二種(若しくはそれ以上の)の生物種が相互に利益を得ていると考えられる「相利共生(Mutualism)」

に始まり(但し、現在の知見では、かつて「相利」とされていたものの中には極端な片利であったり、寧ろ多かれ少なかれ、障害を蒙るところの寄生であることが観察によって明らかになったものも多い)、

●ほぼ一種のみが利益を得ているとしか考えられない「片利共生(Commensalism)」

(片害共生という言葉があるようだが、私は以下の理由からこれを片利や寄生の一様態と捉えて用いない)

そして、既に語られたところの、

●エネルギや利益の収奪がほぼ一方的で収奪される側が宿主と呼ばれるところの「寄生(Parasitism)」

の区別が、判然とは行われなくなったということが挙げられる。即ち共生は、

……相利――片利――寄生……

というような生物種間のエネルギ交換や収奪関係の優位劣性が必ずしも明確でなく、寧ろ、そうした――ヒトの価値観による段階的識別――ではその共生関係の論理的理由が判然としない、出来ないものが実は多い、ヒト中心の生物経済学が無効であることが分かってきたというのが、その非常に大きな変化だと私は思うのである。

 更にもう一つの大きなパラダイム変換として、アメリカの生物学者リン・マーギュリス(Lynn Margulis 一九三八年~二〇一一年)による真核生物細胞内にある細胞小器官の内、独自のDNAを持つミトコンドリアや葉緑体は、元来は細胞内に共生した細菌が起源であるとする画期的な学説の登場が挙げられる(“The Origin of Mitosing Eukaryotic Cells”「有糸分裂する真核細胞の起源」一九六七年)。半世紀前のSFのようなこの認識は、一九七〇年代以降、広く受け入れられるに至り、寧ろ、細胞内共生は一般的な現象であることが明らかになった。これは「共生」認識に新たな発想転換が求められた瞬間であると私は思う。

 更には、その葉緑体や核情報を盗む「盗葉緑体」や「盗核」という細胞内共生の歴史や生物学のセントラル・ドグマをさえ逆回転させてしまう、驚愕の現象の事実を知る時(私のブログ記事「盗核という夢魔を参照されたい)、人類が「共生」を血液型人間学よろしく三種分類して性格を規定し、共生生物を牽強付会にヒト社会に譬えたところで悦に入って、生物を分かったつもりでいた過去が見えてくるのである。

「地衣類」「これは人も知る通り菌類と藻類との雜居して居るもの」と丘先生は述べておられるが、今現在でさえ、私は「地衣類」をコケ植物と同義と思っている者がゴマンといるように思うし、よもや「地衣類」が「菌類と藻類との雜居して居るもの」――真核生物菌界 Fungi に属する菌類(主に子嚢菌門 Ascomycota に属する子嚢菌類)と藻類 algae(真正細菌シアノバクテリア門の Cyanobacteriaシアノバクテリア類又は真核生物アーケプラスチダ界緑色植物亜界緑藻植物門緑藻綱 Chlorophyceae の緑藻類)からなる主構造を菌糸によって構成している共生生物である――と認識し、答えられる人間は、失礼ながら非常に少ないと思われる。現在でも一部で地衣植物と呼称はされるが、地衣類の一方の構成生物である菌類が植物でないのは勿論、もう一方の藻類も現在では植物から分離して考えるのが一般的になりつつある(タクソンの訳語の一部に現在も「植物」という呼称が含まれてはいるが、実に丘先生はこの大正五(一九一六)年の時点で既に「昔は兩方の相合したものを一種の植物と見做して居た」と明解に答えておられることに敬意を表したい)。地衣類は「世界大百科事典」によれば、地衣体と呼ばれる特殊な体を形成し、乾燥や低温などの厳しい環境に耐えて、熱帯から極地まで広く分布する。現在地球上で約二万種、本邦では約一〇〇〇種が知られている。地衣体の大部分を構成する菌類は子囊菌類・担子菌類・不完全菌類で、それぞれ藻類と共生したものを子囊地衣類・担子地衣類・不完全地衣類と呼んでいる。共生藻はゴニジア gonidiaとも呼ばれ、緑藻類やラン藻類に属し、トレブクシア属 Trebouxia・ネンジュモ属 Nostoc・スミレモ属 Trentepohlia が構成種として多く見られる、とあるが、ややその特徴を把握しにくい叙述であるので、以下にウィキの「地衣類」の「特徴」の項を付加しておく。『地衣類というのは、陸上性で、肉眼的ではあるがごく背の低い光合成生物である。その点でコケ植物に共通性があり、生育環境も共通している。一般には、この両者は混同される場合が多く、実際に地衣類の多くに○○ゴケの名が使われている。しかし、地衣類の場合、その構造を作っているのは菌類である。大部分は子のう菌に属するものであるが、それ以外の場合もある。菌類は光合成できないので、独り立ちできないのだが、地衣類の場合、菌糸で作られた構造の内部に藻類が共生しており、藻類の光合成産物によって菌類が生活するものである。藻類と菌類は融合しているわけではなく、それぞれ独立に培養することも不可能ではない。したがって、二種の生物が一緒にいるだけと見ることもできる。ただし、菌類単独では形成しない特殊な構造や菌・藻類単独では合成しない地衣成分がみられるなど共生が高度化している』。『このようなことから、地衣類を単独の生物のように見ることも出来る。かつては独立した分類群として扱うこともあり、地衣植物門を認めたこともある。しかし、地衣の形態はあくまでも菌類のものであり、例えば重要な分類的特徴である子実体の構造は完全に菌類のものである。また同一の地衣類であっても藻類は別種である例もあり、地衣類は菌類に組み込まれる扱いがされるようになった。なお、国際植物命名規約では、地衣類に与えられた学名はそれを構成する菌類に与えられたものとみなすと定められている。地衣を構成する菌類は子嚢菌類のいくつかの分類群にまたがっており、さらに担子菌類にも存在する。したがって独立して何度かの地衣類化が起こったのだと考えられている。また、子嚢胞子の形成が見られないものもあり、そのようなものは不完全地衣と呼ばれる』(アラビア数字を漢数字に代えた)。しかしなおも、どのような様態の生物かをイメージ出来ない方も多いであろう。各種をご覧になりたい向きは、「WEB版 地衣類図鑑」をお薦めする。而して見ると――素人の我々には、やっぱりコケにしか見えない――のでは、ある。

『淡水に産する「ヒドラ」には綠色の種類がある』『淡水に産する「ヒドラ」』刺胞動物門ヒドロ虫綱花クラゲ目ヒドラ科 Hydridae に属するヒドラ属 Hydra 及びエヒドラ属 Pelmatohydra に属する生物群の総称。注意されたいのは『淡水に産する「ヒドラ」』は『淡水産しか存在しない「ヒドラ」』の謂いであることである。狭義のヒドラであるヒドラ属 Hydra 及びエヒドラ属 Pelmatohydra は総てが淡水産で、海産は存在しないからである(参照したウィキヒドラ」にも、この純淡水産の『ヒドラはいわゆるヒドロ虫の代表的なものに取り上げられるが、その構造の特殊性とともに、淡水性であることでも特殊である。これ以外の種はほとんどすべてが海産種である。ヒドラヒドラ科以外の淡水産の種としては、クラバ科のエダヒドラ、モエリシア科のヒルムシロヒドラがある程度である』と記されている。以下、ウィキより引用する。『ヒドラ科(Hydraceae)の動物は、細長い体に長い触手を持つ、目立たない動物である。これらは淡水産で群体を作らず、浅い池の水草の上などに生息している。体は細い棒状で、一方の端は細くなって小さい足盤があり、これで基質に付着する。他方の端には口があり、その周囲は狭い円錐形の口盤となり、その周囲から六~八本程度の長い触手が生えている。体長は約一センチメートル。触手はその数倍に伸びる。ただし刺激を受けると小さく縮む。触手には刺胞という毒針を持ち、ミジンコなどが触手に触れると麻痺させて食べてしまう。全身は透明がかった褐色からやや赤みを帯びるが、体内に緑藻を共生させ、全身が緑色になるものもある』。『足盤で固着するが、口盤と足盤をヒルの吸盤のように用いて、ゆっくりだが移動することもできる』。生活環は『暖かな季節には親の体から子供が出芽することによって増える。栄養状態が良ければ、円筒形の体の中程から横に小さな突起ができ、その先端の周辺に触手ができて、それらが次第に成長し、本体より一回り小さな姿になったとき、基部ではずれて独り立ちする。場合によっては成長段階の異なる数個の子を持っている場合もあり、これが複数の頭を持つと見えることから、その名の元となったギリシア神話のヒュドラを想像させたものと思われる。また、強力な再生能力をもち、体をいくつかに切っても、それぞれが完全なヒドラとして再生する』。『有性生殖では、体の側面に卵巣と精巣を生じ、受精が行われる。クラゲは形成しない。一般にヒドロ虫類では生殖巣はクラゲに形成され、独立したクラゲを生じない場合にもクラゲに相当する部分を作った上でそこに形成されるのが通例であり、ヒドラの場合にポリプに形成されるのは極めて異例である』。この『体内に緑藻を共生させ、全身が緑色になるものもある』が本記載の種で、これはヒドラ属の Hydra viridissima(英名“Green Hydra”)で緑藻類のアーケプラスチダ界緑色植物亜界緑藻植物門トレボウキシア藻綱クロレラ目クロレラ科クロレラ属Chlorella 類を体内に共生させている。この場合、ヒドラはクロレラの光合成による栄養補給や酸素提供を受け、更にヒドラの代謝による老廃物吸収を行わせる一方、ヒドラはクロレラに老廃物としての栄養や光合成のための二酸化炭素を供給し、また安定した光合成の場を提供している「相利的」共生を行っているのである。画像は英語ウィキHydra viridissimaを参照されたい。]

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