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2012/10/19

耳嚢 巻之五 鼠恩死の事 附鼠毒妙藥の事

 鼠恩死の事 附鼠毒妙藥の事

 

 西郷市左衞門といへる人の母儀、鼠を飼ひて寵愛せしが、如何しけるや彼鼠、右母儀の指へ喰附(くひつき)しが、殊の外痛(いたみ)はれければ市左衞門立寄て、憎き事哉(かな)、畜類なればとて日比(ひごろ)の寵愛をも顧(かへりみ)ず、かゝる愁(うれひ)をなせる事こそ不屆(ふとどき)なれとて、打擲(ちやうちやく)なしければ迯失(にげうせ)ぬ。其夜母儀の夢に彼(かの)鼠來りて、右指へ白躑躅(しろつつじ)の花を干たるを付れば、立所に鼠毒を去て癒る由を述て、右白躑躅の花を枕元に置(おく)と見て夢覺ぬ。驚きさめて枕元をみれば、有し鼠は死して白つゝじの花をくわへ居(をり)ける故、右花を指の痛(いたみ)に附しに、立所にはれ引て快也しと也。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:民間伝承薬で連関。動物霊異譚シリーズの一つでもある。

・「西郷市左衞門」底本の鈴木氏注に『西郷員寿(カズヒサ)』(元文四(一七三九)年~?)とする。宝暦四(一七五四)年に十六歳で『遺跡(三百俵)を継ぐ。七年西城後書院番』、寛政二(一七九一)年『本丸勤め、八年若君(家慶)付きとなり西城に勤務』とあるから、執筆推定下限の寛政九(一七九七)年には満五十八歳で、その母であるから七十五は有に越えている。

・「彼鼠、右母儀の指へ喰附しが、殊の外痛はれければ」鼠咬症である。ネズミに咬まれることで、モニリホルム連鎖桿菌又は鼠咬症スピリルムという細菌に感染することで発症する。モニリホルム連鎖桿菌による鼠咬症は、ラット以外にもマウスやリスあるいはこれらの齧歯類を補食するイヌやネコに咬まれて発症する場合があるが、鼠咬症スピリルムの場合は、殆んどはネズミ(ラット)が原因である。モニリホルム連鎖桿菌の感染の場合は通常三~五日の潜伏期の後、突然の悪寒・回帰性を示す発熱・頭痛・嘔吐・筋肉痛などのインフルエンザ様症状で呈する。九〇%以上の罹患者に暗黒色の麻疹(はしか)に似た発疹が四肢の内側や関節の部位に現れるが、数日で消え、痛みを伴う多発性関節炎の症状が現われ、心内膜炎・膿瘍形成・肺炎・肝炎・腎炎・髄膜炎等を合併症として発症することがある。鼠咬症スピリルムの感染ではほぼ同じであるが、関節炎を伴うことは殆どない。ペニシリンを第一選択薬とするが、テトラサイクリン・ドキシサイクリンも有効である。ラットなどの齧歯類に咬まれた場合は、速やかに傷口を消毒し、医療機関を受診することが肝要である(以上は「goo ヘルスケア」の「鼠咬症」の国立感染症研究所獣医科学部部長山田章雄氏の記載に基づく)。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 鼠の恩死の事 附 鼠毒の妙薬の事

 

 西郷市左衛門と申される御方の御母堂、鼠を飼ってご寵愛になられて御座ったが、どうした弾みか、ある時、この鼠、こともあろうに、かの母者(ははじゃ)の指に喰いついて御座った。その後、そこが殊の外痛んで腫れ上がって御座った故、市左衛門殿は母者の部屋へ見舞った折り、

「憎っくきことじゃ! 畜類とは申せ、日頃の御寵愛をも顧みず、かかる憂いをば母者に齎(もたら)すとは、これ、不届き千万!」

と、持った扇子で籠を打ち叩いたところ、壊(こぼ)れた隙より、何処ぞへ逃げ失せて御座った。……

……その夜のこと、母者が夢に、かの鼠が来たって、

「……そのお指へ白躑躅(しろつつじ)の花を干したものを、お貼(つ)けにならるれば、たちどころに我らが毒を去って、癒えまする……」

かく述べて……鼠が……その白躑躅の花を……枕元に……置く……と見えて……夢から覚める――すっかり覚めた眼(めえ)で、ふと枕元を見れば――在りし日の、かの鼠が白躑躅の花を銜(くわ)えて死して御座った――

――されば、この花を痛む指にお貼けになったところ、たちどころに腫れが引いて、快癒なされたとのことで御座る。

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