鎌倉攬勝考 最後の注 来迎寺
來迎寺 高松寺の南に隣れり。時宗、藤澤山淸淨光寺の末なり。開山は一遍上人といふ。
[やぶちゃん注:ここの本尊如意輪観音は私が鎌倉で最もエクスタシーを感ずる仏像の一つである(今一つは浄光明寺の上品中生印を結ぶ阿弥陀像である)。今は豪華な仏殿でおごそかにましましてしまっているが……
……私が十九の冬に訪れた時……
……小さな、本当に小さなそのお堂は、普通の町家の家のようで、その中で近隣のお婆さんたちが五、六人集まって、楽しそうに世間話をしていた……
……そのお婆さんたちのすぐ背後に、普通の家の仏壇のような凹んだ棚があり、そこに如意輪観音は座っておられた……
……まさに目の前に……
……その半跏思惟の滑らかな腕や、ふくよかな脚……
……今にも私の胸の中にしだれかかってきそうな、その顔を拝した時……
……お婆さんの一人が、笑いながら言った……
「……お兄さん、よーぅ、見てって下さいねぇ……」
……私は何故か……
……不思議に……
……顔が赤くなるのを覚えた……
……お婆さんたちから蜜柑と和菓子をたくさん貰った……
……「私は夕暮れの坂を――下(お)りました」……]
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