芥川龍之介 紅葉 《芥川龍之介未電子化掌品抄》
[やぶちゃん注:大正九(一九二〇)年十一月刊の『現代』に掲載された。底本は岩波版旧全集第十二巻第二刷の「拾遺」を用いた。底本は総ルビであるが、必要を認めないので省略した。底本では冒頭が「紅葉(こうえふ)」と書きてモミヂと讀む」となっているのを見ても、このルビは芥川自身によるものではないことは明白と思われる。因みに私の知れる限りでは(近代俳句であるが)正岡子規の明治二五(一八九二)年の「寒山落木」の一に、
紅葉する木立もなしに山探し
がある。]
紅葉
紅葉と書きてモミヂと讀む、この言葉を動詞にしたるは、歌には多けれども句には少きやうなり。素堂の『雲なかに岩を殘して紅葉けり』と云ふ句など、乏しき中の一例ならんか。予の好む紅葉の句は、凡兆の『肌寒し竹切る山のうす紅葉』なり。