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2012/11/26

生物學講話 丘淺次郎 第五章 食はれぬ法 三 防ぐこと~(7)/了


Mamehanmyou

[豆はんめう]

Sukannku

[スカンク]

 

 堅い甲でも、鋭い針でも、敵の攻撃を防ぐ器械的の裝置であるが、その他になほ、化學的の方法を用ゐて身を守るものがある。例へば「ひきがえる」の如きは、敵に遇つても逃ることも遲く、隱れることも拙である。しかし、皮膚の全面にある大小の疣から乳の如き白色の液を出すが、この液が眼や口の粘膜に觸れると、浸みて痛いから、犬なども決して、「ひきがえる」には食ひ附かぬ。魚類には「おこぜ」・「あかえひ」などの如くに、毒針で螫すものが幾種もある。豆につく「はんめう」といふ昆蟲はこれを捕へると、足の節から劇烈な液を分泌するが、強く皮膚を刺戟するから、この種の蟲を乾せば、發泡剤として用ゐられる。また「くらげ」・「いそぎんちやく」の類は、體の外面に無數の微細な嚢を具へ、敵に遇へばこれより毒液を注ぎ出して防ぐが、餌を捕へるにもこれを用ゐるから、これは防禦・攻撃兩用の武器である。アメリカに産する「スカンク」といふ「いたち」に似た獸は、非常な惡臭のあるガスを發するので有名であるが、これも、敵を防ぐための化學的方法の一種といへる。臭氣を出す腺は肛門の兩側にある。

 海綿の類は全身いづれの部分にも角質または珪質の骨骼が、網状をなして擴がつて居るから、他の動物のために食はれることは殆どない。海岸の岩の表面には黄色・赤色・鼠色などの海綿が一面には生えて居るところがあるが、固著して逃げも隱れもせず、甲も被らず、棘も出さず、毒を含まず、臭氣を放たず、しかも敵に襲はれることのないのは、全く身體が食へぬからである。「あれは食へぬ奴だ」などとは、よく聞く言葉であるが、動物中で眞に食へぬものといへば、恐らくまづ海綿位なものであらう。

[やぶちゃん注:「ひきがえる」一応、本邦種の両生綱無尾目ナミガエル亜目ヒキガエル科ヒキガエル属ニホンヒキガエル Bufo japonicas を挙げておく。彼らの持つ主要毒成分は強心配糖体ラクトンのブファジエノライド(六員環:化合物中、ベンゼン環などのように環状に結合している原子が六つあるものをいう。)型のステロイド配糖体で、薬剤名からお分かりの通り、ヒキガエルの毒腺から単離された毒素である。

「おこぜ」条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目カサゴ目カサゴ亜目に属するもので棘に毒を有する魚類の一般的総称で、特に、

フサカサゴ科オニオコゼ亜科オニオコゼ Inimicus japonicas

ハオコゼ科ハオコゼ Hypodytes rubripinnis

などが代表種である。中でも、最も危険性の高い種として、

オニオコゼ亜科オニダルマオコゼ Synanceia verrucosa

及び同属種は記憶しておいてよい。何れも背鰭の棘条に毒腺を備えており、その成分もタンパク質の神経毒であるが、特にオニダルマオコゼ Synanceia verrucosa のそれは、棘毒魚中最強とされるもので、主成分をベルコトキシン(verrucotoxin)と呼び、溶血活性と毛細血管透過性亢進活性を併せ持つとされる。これやストナストキシン(stonustoxin)などのオニオコゼ類の粗毒のマウス静注マウス静脈注射のLD50値(半数致死量:投与した動物の半数が死亡する用量“Lethal Dose, 50%”の略)は0.2mg/kgとされる。参照した「医薬品情報21」の「オニダルマオコゼの毒性」によれば、『全身の熱感が数日続き、その痛みは灼熱及び鞭打ちされる感じを伴って耐え難く、知覚さえも失われる。傷口は麻痺し、傷口から離れたところにも痛みがある。全身の麻痺、浮腫、傷口の腐乱も見られる。更に全身の症状を伴い、心律の衰弱、精神的錯乱、痙攣、吐き気、嘔吐、リンパ結節の炎症、腫れ、関節痛、発熱、呼吸困難、ショックなどが見られ、最後に死亡する。死を免れても回復に数ヵ月かかる等の報告が見られる』とある。私が管見した事故記録では、毒による致死よりも、刺傷によるショック症状からダイバーや海水浴客がそのまま失神して溺死するケースも見られた。但し――このオニダルマオコゼ Synanceia verrucosa は――途轍もなく旨いのだ! 値は張るが――「沖縄に行ってこいつを食べないという法は、ねえぜ!」――と声を大にして主張するのを私は常としている。

「あかえひ」軟骨魚綱板鰓亜綱トビエイ目アカエイ科アカエイ Dasyatis akajei。細長くしなやかな鞭状を呈する尾の中ほどに数センチメートルから一〇センチメートルほどの長棘が一、二本近接して並んでおり、鋸歯状の返しを持つが、これが毒腺を有する。毒は5―ヌクレオチダーゼ(nucleotidase,5')やホスホジェステラーゼ(Phosphodiesterase, PDE)という酵素を主成分とすると推定されており、アレルギー体質の場合、アナフィラキシー・ショックによって死に至ることもある。

『豆につく「はんめう」』甲虫(鞘翅)目ゴミムシダマシ上科ツチハンミョウ科マメハンミョウ Epicauta gorhami。本邦にも生息する本種は体内にエーテル・テルペノイドに分類される有機化合物の一種カンタリジン(cantharidin)を一%程度持っており、乾燥したものはカンタリジンを〇・六%以上含む。カンタリジンは不快な刺激臭を持ち、味は僅かに辛い。その粉末は皮膚の柔らかい部分又は粘膜に付着すると激しい掻痒感を引き起こし、赤く腫れて水疱を生ずる。発疱薬(皮膚刺激薬)として外用されるが、毒性が強いために通常は内用しない(利尿剤として内服された例もあるが腎障害の副作用がある)。なお、カンタリジンは以前、一種の媚薬(催淫剤)として使われてきた歴史があることはかなり知られている(以上は信頼出来る医薬関連サイトを参考にした)。以下、ウィキの「スパニッシュ・フライ」の記載から引用する。このスパニッシュ・フライの類を『人間が摂取するとカンタリジンが尿中に排泄される過程で尿道の血管を拡張させて充血を起こす。この症状が性的興奮に似るため、西洋では催淫剤として用いられてきた。歴史は深く、ヒポクラテスまで遡ることができる。「サド侯爵」マルキ・ド・サドは売春婦たちにこのスパニッシュフライを摂取させたとして毒殺の疑いで法廷に立った事がある』と記す(なお、サドはそれで死刑宣告を受け投獄、フランス革命によって一時釈放されたが、ナポレオンによって狂人の烙印を押されてシャラントン精神病院に収監、そこで没している)。

「スカンク」食肉(ネコ)目スカンク科四属一五種の哺乳類の総称。北アメリカから中央アメリカ、南アメリカにかけて生息する(但し、スカンクアナグマ属はインドネシア・フィリピンなどマレー諸島の西側の島々に生息)。多くは白黒の斑模様の体色をなすが、これは外敵に対する警戒色である。体長は四〇〜六八センチメートル、体重は〇・五〜三キログラムで、ふさふさとした長い尾をもつ。雑食性でネズミなどの小型哺乳類・鳥卵・昆虫・果実などを餌とし、地中に巣穴を作る。肛門の両脇にある肛門傍洞腺(肛門嚢)から、強烈な悪臭のする分泌液を噴出して外敵を撃退することで知られる。分泌液の主成分はブチルメルカプタン(C4H9SH)で、その臭いの形容は硫化水素臭やにんにく臭など、文献によって異なる。なお、スカンクは狂犬病の媒介動物でもあり、テキサス州やカリフォルニア州などでは人間が狂犬病にかかる感染源のトップとして挙げられている。但し、分泌液を介して狂犬病に感染した例は知られていない(以上は主にウィキスカンク」に拠った)。

「海綿」海綿動物門 Porifera に属し、各種多彩な形状と大きさを持つ。分類学的には、

石灰海綿綱 Calcarea(骨格主成分は炭酸カルシウム、総て海産)

普通海綿綱 Demospongiae(現生カイメン類の九五%が属し、骨格は柔軟性のある海綿質繊維、コラーゲンの一種であるタンパク質のスポンジンで構成される)

六放海綿綱 Hexactinellida(ガラスカイメンとも呼ばれ、六放射星状の珪酸質の骨片を主とする骨格を持つ。深海底の砂地などに生息。本文既出のカイロウドウケツ Euplectella aspergillum は本綱に属する)

硬骨海綿綱 Sclerospongiae(炭酸カルシウムの骨格の周囲を珪酸質の骨片と海綿組織が取巻いた構造を持つが多くは化石種)

に分かれる(以上はウィキ海綿動物に拠った)。海綿動物は六億三千五百万年以上前(エディアカラ紀より前)に地球に出現した、多細胞生物の祖先であり、地球上で最も永く生存を維持している動物群でもある。

「動物中で眞に食へぬものといへば、恐らくまづ海綿ぐらいなものであらう」と丘先生は述べておられるが、これは現在の知見から言うと誤りで、カメ目潜頸亜目ウミガメ上科ウミガメ科タイマイ Eretmochelys imbricate は主食として特定のカイメン類を採餌するし、ある種のウミウシは、有毒種である普通海綿綱イソカイメン目イソカイメン科イソカイメン属クロイソカイメン Halichondria (Halichondria) okadai を摂餌して、その毒を体内に貯えて自己防衛に用いている(但し、クロイソカイメンの持つ毒は共生藻類である有毒渦鞭毛藻により産生される毒素オカダ酸(okadaic acid C44H68O13)によるものである)。この世界であっても「蓼喰う虫も好き好き」の諺は有効なのである。]

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