鎌倉日記(德川光圀歴覽記) 荏柄天神/天台山/大楽寺
荏柄天神〔源順ガ和名鈔ニ荏草(エガラ)ト有リ〕
法華堂ノ東也。十九貫二百文ノ御朱印アリ。僧云。賴朝以前ヨリ有社也。然ドモ祝融ノ災度々ニシテ記録傳ハラズ。文獻徴トスべキナシト云。別當ヲ一乘院ト云。眞言宗ニテ京洛ノ東寺ノ末ナリ。菅相公ノ束帶ノ木像アリ。作者知レズ。足腰ヤケフスモリテ有。五臟六腑ヲ作入トナリ。ロノ内ニ鈴ヲカケテ舌トシ、頭二十一面觀音ヲ入ト云。兩脇ノ小宮ハ、紅梅殿・老松社也。
[やぶちゃん注:「祝融の災」火災。中国で火を司る神を祝融と呼ぶことに基づく。「回禄」も同じ。]
神寶
尊氏自畫自讚ノ地藏像 一幅
[やぶちゃん注:次の讃の解説は底本では全体が二字下げ。以下の解説も同じ(以下略す)。]
讚曰、爲天化藏主仁山書、文和四年六月六日、善根無所窮 利濟徧沙界 令我畫尊容 夢中有感通。朱印及ビスへ判アリ。
[やぶちゃん注:「文和四年」西暦一三五五年。]
天神自畫像 一幅
天神筆瑜伽論 二卷
長二寸五分、廿五字充アリ。此經ハ一部百卷ノ物ナリ。シカルヲ十卷ニ書ツヾメラレケル其内ノ二卷ナリ。殘ハ極樂寺ニ三卷、金澤ノ稱名寺三卷、高野山ノ金剛三味院三卷、合テ七卷ハ今猶存セリ。其外三卷ハ有所シレズト別當一乘院語キ。
天神名號 一幅
義持將軍ノ自筆也。一行物也。
南謨天滿大自在※神顯山朱印カクノ如シ、スへ判モ有。
[やぶちゃん注:「※」=(くさかんむり)+「曳」。「朱印」は横書き。「顯山」(足利義持の法号)の朱印が押されていることを示す。
「スへ判」花押。]
緣起 三卷
畫ハ土佐ガ筆也。書ハ行能カト云。當社ノ建立ノ事ハ不見(見えず)。只天神ノ事ヲシルセリ。
扇ニ古歌八首 台德公ノ自筆也卜云。此内二首ハハシ書アリ。
[やぶちゃん注:「台德公」徳川秀忠。]
太刀 一腰
正宗、銘ナシ。長一尺三寸六分、ハヾ二寸四分、サシ表ニハ梅、裏ニハ天蓋不動ノ梵字、倶利伽羅不動ヲ彫ル。
大進坊ホリモノ也。
笄 〔後藤祐乘彫物、梅、長九寸五分〕一本
小刀〔嶋田助宗作〕 一本
柄〔後藤乘眞彫物、梅、黑塗ノ鞘、梅ノ蒔繪也〕一本
天 台 山
覺園寺ノ上ノ山也。覺園寺へ行道ヨリ見ユル。
[やぶちゃん注:何故か、これと次の「大樂寺」の標題は四字下げとなっている。]
大 樂 寺
覺園寺ノ入口左ノ方ニ有。泉涌寺ノ末ニテ禪律也。覺園ノ寺内ナリ。本尊ヲ試ミノ湯ノ不動ト云。金佛也。願行ノ作ト云。大山ノ不動ヲ鑄ン爲ニ先試ニ鑄タル佛ナリトゾ。愛染、運慶作也。藥師、願行作ナリ。
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