芥川龍之介漢詩全集 六
六
眞山覧古
山北山更寂
山南水空廻
寥々殘礎散
細雨灑寒梅
〇やぶちゃん訓読
眞山(しんやま)覧古
山北(さんほく) 山 更に寂し
山南 水 空しく廻(めぐ)る
寥々(れうれう)として 殘礎 散り
細雨 寒梅に灑(そそ)ぐ
[やぶちゃん注:「眞山」は松江市法吉町の北部にある標高二五六メートルの山。築城主は平忠度といわれるが、特に毛利元就が尼子氏の白鹿(しらが)城攻略のために陣を敷いたことで知られ、尾根や頂上部に僅かな城郭の跡が現存する。山頂からは松江市や日本海が見下せる(以上は主にゼンリンの「いつもNAVI」の「真山城址」の記載に拠った)。
「細雨 寒梅に灑ぐ」「五」の注で示したように龍之介が訪れたのは八月で、本詩の詩的映像全体は想像のものであって実景ではない。「やぶちゃん版芥川龍之介俳句全集 発句拾遺」の「松江連句(仮)」をお読みになれば分かるように、彼らは何度もこの山に大汗をかいて登っては、爽快を楽しんでいる。いや、故にこそ、彼の内面の、やはり癒し難い寂寥が反映した心象風景であったと言えるのであろう。]