生物學講話 丘淺次郎 第五章 食はれぬ法 四 嚇かすこと~(2)
ヨーロッパから朝鮮までに産する蛙の一種に背は普通の色であるが、腹には一面に美しい朱色または橙色の斑紋のあるものがある。形は「ひきがへる」に似て更に小さく、運動も餘り活發ではないが、敵に遇ふと急に轉覆して腹面を上にし、且反り返つて腹面を態々押し上げ、四足をも曲げて、極めて奇態な姿勢を取る癖があるから初めて見る人は如何にも不思議に思ふ。これも恐らく一時敵を驚かせ、氣味惡く思はせて危難を免れるための習性であらう。
[やぶちゃん注:ここにしめされたカエルは、両生綱無尾目ムカシガエル亜目スズカエル科スズガエル属
Bombina に属する種群を指していると考えてよい。これらは文字通り、ヨーロッパから朝鮮半島までを生息域とする。但し、この全域を生息域とする「種」は存在しない。ヨーロッパ域では、
ヨーロッパスズガエル
Bombina bombina → 画像
*体長は五・五センチメートル、腹面はオレンジや黄色に不規則な黒斑と白い斑点が入る。
キバラスズガエル
Bombina variegata → 画像
*体長四~五センチメートル、腹面は黄色やオレンジに不規則な小型黒斑が入る。
が、朝鮮半島・中国東北部・沿海州では、
チョウセンスズガエル
Bombina orientalis → 画像
*体長四~五センチメートル、腹面は鮮紅色に黒斑が入る。
を挙げておけば、本記載の注としては充分かと思われる。それぞれの画像は特に示さないが海外サイトの中から腹面がよく分かる画像を選んでリンクさせた(両生類のイモリの腹のようなのが生理的にダメな人は見ないがよろしい)。]