芥川龍之介漢詩全集 二十五
二十五
偶 成
瑟々侵階月
幽人帶醉看
知風露何處
欄外竹三竿
〇やぶちゃん訓読
偶 成
瑟々(しつしつ)として 階を侵す月
幽人 醉(すゐ)を帶びて看る
知んぬ 風露(ふうろ) 何處(いづく)よりぞ
欄外 竹(ちく) 三竿(さんかん)
[やぶちゃん注:龍之介満二十七歳。
大正九(一九二〇)年九月十日附小島政二郎宛(岩波版旧全集書簡番号七六九)
で、葉書に本漢詩を記し、次行の下方に、
我鬼窟主人 ㊞
(㊞は「我鬼」)とある。邱氏は転句を『読み取りづらい』とし、『最後の句はもと素晴らしい別天地を演出すべきであろうが、「三竿」では不十分である。』(これは「二十」で引用した邱氏の見解を参照されたい)と評されるのみで、三十四首の内で、最もそっけない。
「瑟々」風が寂しく吹くさま。
「幽人」隠者。
「風露」涼風と露。]