昨夜見た夢に出た人
昨夜の夢に、往年の人々に逢って一献傾ける夢を見た。
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その初めは、まず平田明彦・久我美子夫妻であった(勿論、実際には逢ったことはない)。
平田氏はスーツを如何にもダンディに着こなし、「ゴジラ」の芹沢博士のまんま、格好よく「どうも」というと、煙草をふかしていた。
隣り座っている美しい久我美子夫人に僕はどぎまぎしながら、「握手させて戴けますか?」と申し出つつ、裾で右手をしきりに拭ったのを、はっきりと覚えている。
――因みに僕は、黒澤明の彼女がとても好きで、「酔いどれ天使」のセーラー服の美少女に惚れ、「白痴」のアグラーヤ(役名:大野綾子)の指がムイシュキン(亀田欽司・森雅之)の唇に触れた瞬間には、映画館で人知れずエクスタシーを感じたものであった――あの映画は、僕にとってとんでもなく素晴らしい映画だった――だって僕の銀幕の永遠の女神原節子がナスターシヤ (那須妙子) 役であったから……
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もう一人、逢った人がいる。大船の飲屋で彼は待っていた。……
津金規雄氏であった。
彼は僕が最初に教員になった柏陽高校国語科の数歳年上の先輩であったが、何時も隣りの席で、僕は何かと――生徒を指名する際の方法から、配布資料の作り方に至るまで――教えを乞い、ともに独身であったから、食事や旅行などにも行ったりした。
何より忘れ難いのは、歌舞伎を見たことがなかった僕を中村翫右衛門最後の歌舞伎座での「俊寛」に誘って呉れたことである。
僕は歌舞伎と言えば、あの翫右衛門の「俊寛」の最後の達観の笑顔(この演出は彼独自のものである)に尽きる。
……その数年後に教員をおやめになられたが、その後歌舞伎の劇評などを手掛けられ、ネットを検索すると、現在は、青山学院女子短期大学講師の講師をなされ、また歌集「時のクルーズ」もお出しになられている。
……津金さんは猿之助の同じ「俊寛」にも誘って呉れたが、その感動の「差」を僕に黙って連れとなって示して呉れた彼を……今、少しばかり文楽を楽しむようになった僕は……その夢の中で……何かとても、彼に感謝したい気持ちで一杯で盃を交わしていたのであった……
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