一言芳談 二十六
二十六
法然上人云、一念十念にて往生すといへばとて、念仏を疎相(そさう)に申ば、信が行(ぎやう)をさまたぐるなり。念々不捨者(すてざるもの)といへばとて、一念十念を不定(ふぢやう)におもふは、行が信を妨(さまたぐる)也。信をば一念に生(しやう)と取て、行をば一形(ひとかた)はげむべし。
〇一念十念、十聲(こゑ)一聲(こゑ)。願文(ぐわんもん)には乃至十念とあり。成就(じやうじゆ)の文には一念とあり。
〇念々不捨者、善導の御釋あり。
〇行が信を妨也、口に名號をとなふるを行といひ、心に佛願をたのむを信といふ。
〇一形、一生涯のことなり。
[やぶちゃん注:「念仏」は『死のエピグラム 「一言芳談」を読む』及び国立国会図書館デジタル・ライブラリー版の同慶安元(一六四八)年林甚右衛門板行版「一言芳談抄」二巻本現物画像に拠る。
「疎相」麁相。粗略。軽率。いいかげん。
「不定」確かでないもの。定まらないもの。当てにならぬもの。
「願文」無量寿経の第十八願。所謂、彌陀の本願である。
設我得佛、十方衆生、至心信樂、欲生我國、乃至十念、若不生者、不取正覺、唯除五逆、誹謗正法。
(設(たと)ひ我れ佛を得たらんに、十方の衆生、至心信樂して、我が國に生ぜんと欲(おも)ひて、乃至十念せん。若(も)し生ぜずは、正覺を取らじ。唯だ五逆と誹謗正法とをば除く。)
「成就の文」同じく無量寿経の第十八願成就文。
諸有衆生、聞其名號、信心歡喜、乃至一念、至心囘向、願生彼國、即得往生、住不退轉、唯除五逆、誹謗正法。
(あらゆる衆生、その名號を聞きて、信心歡喜せんこと、乃至一念せん。至心に囘向したまへり。かの國に生れんと願ずれば、即ち往生を得、不退轉に住せん。唯だ五逆と誹謗正法とをば除く。)
「善導の御釋」『死のエピグラム 「一言芳談」を読む』の大森氏脚注では、本文の「念々不捨者」に注して『一心につねに弥陀の名号をとなえるならば、となえる瞬間ごとに弥陀は念仏者をすくいとってくださる。』と訳されて、『これは「散善義」に見える善導の釈』であると記しておられる。
「信をば一念に生と取て」『信』に於いては、一遍の念仏でも必ず往生出来る、と心から思って敬虔に唱え、の意。]