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2013/01/11

西東三鬼句集「夜の桃」Ⅱ(前)

 Ⅱ

國飢ゑたりわれも立ち見る冬の虹

寒燈の一つ一つよ國敗れ

雪の町魚の大小血を垂るる

  昭和二十二年元旦一句

降る雪の薄ら明りに夜の旗

中年や獨語おどろく冬の坂

美しき寒夜の影を別ちけり

春雷の下に氷塊來て並ぶ

曇日の毛蟲が道を横ぎると

大佛殿いでて櫻にあたたまる

志賀直哉あゆみし道の蛸牛

薔薇を剪り刺(とげ)をののしる誕生日

梅雨ちかき奈良の佛の中に寢る

卓上にけしは實となる夜の顏

かくし子の父や蚊の聲來り去る

梅雨ふかしいづれ吾妹と呼び難く

梅雨の日のただよひありぬ油坂

塔中や額に靑き雨落つる

靑き奈良の佛に辿りつきにけり

梅の實の夜は月夜となりにけり

戀猫と語る女は憎むべし

人の影わらひ動けり梅雨の家

顏みつつ梅雨の鏡の中通る

おそるべき君等の乳房夏來(きた)る

茄子畑老いし從兄とうづくまり

汗し食ふパン有難し糞の如し

女の手に空蟬くだけゆきにけり

中年や遠くみのれる夜の桃

老年の口笛涼し靑三日月

顏近く蟬とび立てり亡母(はは)戀し

穀象の群を天より見るごとく

穀象を九天高く手の上に

數百と數ふ穀象くらがりへ

穀象に大小ありてああ急ぐ

穀象の逃ぐる板の間むずがゆし

穀象の一匹だにもふりむかず

穀象と生れしものを見つつ愛す

晝三日月蜥蜴もんどり打つて無し

夏荒れし菜圃女を待つとなく

中年やよろめき出づる晝寢覺

浮浪兒のみな遠き眼に夏の船

女立たせてゆまるや赤き旱(ヒデリ)星

朝の飢ラヂオの琴の絶えしより

飢ゑてみな親しや野分遠くより

夜の秋缺伸のあとのまた暗く

狂院をめぐりて暗き盆踊

秋天をゆきにし鳥の跡のこる

男・女長良夜の水をとび越えし

燒跡に秋耕の顏みなおなじ

秋風や一本の燒-けし樹の遠さ

秋の暮遠きところにピアノ彈く

秋の暮彼小さし我小さからむ

靑柿の堅さ女の手にすわる

みな大き袋を負へり雁渡る

秋耕のおのれの影を掘起す

  春日神社仲秋神事能 四句

老年や月下の森に面の舞

露暗き石の舞臺に老の舞

舞の面われに向くとき秋の夜

能の面秋の眞闇の方へ去る

雄鷄や落葉の下に何もなき

秋の巖稚き蜂を遊ばしむ

秋庭の闇見てあれば嚴浮かぶ

稻雀五重の塔を出發す

蝸牛秋より冬へ這ひすすむ

枯蓮のうごく時きてみなうごく

露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

石榴の實露人の口に次ぎ次ぎ入る

耕すや小石つめたき火を發す

胡坐居て熟柿を啜る心の喪

柿むく手母のごとくに柿をむく

百舌の聲豆腐にひびくそれを切る

竹伐り置く唐招提寺門前に

落穗拾ふ顏を地に伏せ手を垂れて

倒れたる案山子の顏の上に天

月光の霧に電燈光(でんとうこう)卑し

滝の水寒やぐづをれくづをれて

冬滝を日のしりぞけば音變る

滝爪立ち寒きみなかみ覗くなり

機關車が身もだへ過ぐる寒き天

藁塚の茫々たりや伊賀に入る

冬菜畑伊賀の驛夫は鍬を振る

冬耕のどの黑牛もみな動く

冬濱に老婆ちぢまりゆきて消ゆ

沖へ向き口あけ泣く子冬の濱

冬濱に沖を見る子のいつか無し

海苔粗朶もて男を打てり遠景に

干甘藷(いも)に昨日(きそ)の日輪今日も出づ

冬の日は干甘藷のためあるごとし

干甘藷に昃り沖邊に日あたれり

干甘藷を取入れ燈下二人讀む

砂の庭干甘藷なくて月照らす

蜜柑山の雨や蜜柑が顏照らす

あからさまに蜜柑をちぎり且啖ふ

海峽の雨來て蜜柑しづく垂る

からかさを山の蜜柑がとんと打つ

樹の蜜柑愛撫す二重(ふたへ)顎のごと

まくなぎに幹の赤光うすれゆく

まくなぎの阿鼻叫喚を吹きさらう

[やぶちゃん注:底本「さらう」の「う」に『ママ』表記。]

まくなぎを無しと見て直ぐ有りと見る

まくなぎの中に夕星ひかり出づ

まくなぎの憂鬱をもて今日終る

木枯や馬の大きな眼に涙

木枯やがくりがくりと馬しざる

木枯は高ゆき瓦礫地に光る

燒けし樹に叫び木枯しがみつく

寒月に瓦礫の中の靑菜照る

寒月光電柱傳ひ地に流る

寐んとしてなほ寒月を離れ得ず

卵一つポケットの手にクリスマス

甘藷(いも)蒸して大いに啖ふクリスマス

黑人の掌(て)の桃色にクリスマス

寒卵累々たりや黑き市民

凍天へ脚ふみ上げて裸の鷄

破璃窓を鳥ゆがみゆく年の暮

年去れと鍵盤強く強く打つ

元日を白く寒しと晝寐たり

寒雀人の夜明けの輕からぬ

大寒の猫蹴つて出づ書を賣りに

枯れ果てし馬糞を踏んで書を賣りに

大寒の街に無數の拳ゆく

猫が人の聲して走る寒の闇

火事赤し一つの強き星の下

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