一言芳談 六十二
六十二
又云、仏たすけ玉へと思ふ心を、第一のよき心にてあることを、眞實に思ひしる事、人ごとになきなり。
〇たすけ給へ、此心の大切なる事は向阿上人の往生至要訣、歸命本願抄を見るべし。
[やぶちゃん注:湛澄はこれを同じ「安心」の部立に入れながら、二つに分けてしまい、しかも「六十二」を「六十一」の前にして続けて並べておきながら、「六十」はその九条も後に分離して配している。恐らく湛澄は読む者が、私が「六十」の注で述べたような、発話者をも巻き込んだ全命題への「偽」の感懐を持つこと――若しくは不全知の無効化捨象化へと赴くことを憂慮して、こんな分断と転倒をしたのだとしか、思われない。少なくとも、この三条はこの順で、ソリッドに提示されてこそ意味があると私は思う。そしてそれが「一言芳談」という魔書の持つ魅力なのであるようにも思うのである。因みに、この後も顕性房の条は「六十六」まで連続するのである。
恐らく「往生至要訣」向阿証賢述。延慶二(一三〇九)年成立。浄土宗第三祖良忠門下六流の内、一条流の流れをくむ著者証賢が、師である派祖礼阿然空の没後、浄土の法門についての異義・邪義を唱える者のあることを嘆いて相伝の正義を記したもの。]
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