西東三鬼全四句集 始動 「旗」 昭和10(1935)年
ブログ・カテゴリ「西東三鬼」を創始し、以下の通り、まず「西東三鬼全四句集」を始動する。
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西東三鬼全四句集(「旗」・「夜の桃」・「今日」・「變身」)
[やぶちゃん注:これは西東三鬼の生前の公刊分の句集を総て網羅するプロジェクトである。底本は平成四(一九九二)年沖積舎刊の「西東三鬼全句集」を底本として、それぞれの句集に掲載された自序及び句を掲げる(当該底本は原形配列であるが、当該句の異同句をも網羅している)。但し、私のポリシーに則り、恣意的に(私は西東三鬼の各句集原本は一冊も所持していないため)漢字を正字化した(この理由については俳句の場合、特に私には確信犯的意識がある。戦後の句集は新字採用のものもあるであろうが、それについては、私の「やぶちゃん版鈴木しづ子句集」の冒頭注で、私の拘りの考え方を示してある。疑義のある方は必ずお読み頂きたい)。なお、本文中の元号の西暦表記は、一部若しくは総ての親本(句集)にはないものとも思われるが附した。
――私は私なりに西東三鬼という猥雑にして典雅なる思想の存在の「忠實な下僕である」と自認している。私のかくなる仕儀を、今、憎む人々に、今、愛する人々に、この句集を捧げる――藪野直史【始動:二〇一三年一月七日】]
句集「旗」
(三省堂より昭和一五(一九四〇)年三月二十五日発行)
自序
或る人達は「新興俳句」の存在を悦ばないのだが、私はそれの初期以來、いつも忠實な下僕である。
前半は昭和十年以後の作品から採錄し、後半の「戰爭」は昭和十二年以後の作品である。
私の俳句を憎んだ人々に、愛した人々にこの句集を捧げる。
昭和十(一九三五)年
アヴェ・マリヤ
聖燭祭工人ヨセフ我が愛す
燭寒し屍にすがる聖母の圖
聖燭祭妊まぬ夫人をとめさび
咳(しはぶき)て神父女人のごと優し
聖燭祭娶らぬ教師老いにける
あきかぜ
あきかぜの草よりひくく白き塔
貝殼のみちなり黑き寡婦にあふ
ほそい靴貝殼をふむ音あゆむ
風とゆく白犬寡婦をはなれざり
砂白く寡婦のパラソル小さけれ
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