一言芳談 五十五
五十五
行仙房云、たゞ佛道をねがふといふは、別にやうやうしき事なし。ひまある身となりて、道をさきとして餘事(よのこと)に心かけぬを第一の道とす。
〇やうやうしき事なし、やみやみしき、心やましき事也。
やうやうしき事なし、事々しき事なし。(句解)
〇ひまある身、これが所詮なり。身にひまなければ、靜ならず。心靜かならねば、道心も修行もすゝまぬなり。
〇餘の事、世の事共かけり。(句解)
[やぶちゃん注:Ⅱ本文頁最終行に「一言芳談卷之上終」とある。本条は「徒然草」第九十八段に、「一言芳談」からの五つの引用の最後にこれを配している。
一、 仏道を願ふといふは、別(べち)の事なし。暇ある身になりて、世のことを心にかけぬを、第一の道とす。
「道をさきとして」という行仙房の言説(ディスクール)の核心的目的性を除去した兼好は実に巧妙にして機略的である。]