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2013/01/22

西東三鬼句集「變身」 昭和三十一(一九五六)年 一一四句

昭和三十一(一九五六)年 一一四句

 

霧ひらく赤襟卷のわが行けば

 

枯樹鳴る石をたたみし道の上

 

老の仕事大根たばね木に掛けて

 

聖誕祭わが體出でし水光る

 

相寄りし枯野自轉車また左右へ

 

地下の街誰かの老婆熟柿賣る

 

相寄りし枯野自轉車また左右へ

 

寒夜の蜘蛛仮死をほどきて失せにけり

 

眼がさめてたぐる霜野の鷄鳴を

 

地下の街誰かの老婆熟柿賣る

 

機關車單車おのが白息踏み越えて

 

聖誕祭男が流す眞赤な血

 

 靜塔へ

 

蟹の脚嚙み割る狂人守ルカは

 

  悼日野草城先生 六句

 

寒き花白蠟草城先生の足へ

 

死者生者共にかじかみ合掌す

 

觸れざりき故草城先生の廣額(ぬか)

 

師の柩車寒の砂塵に見失ふ

 

深く寒し草城先生燒かるる爐

 

寒の鳥樹にぶつかれり泣く涙

 

[やぶちゃん注:「ミヤコホテル論争」で知られた日野草城(明治三四(一九〇一)年~昭和三一(一九五六)年)は昭和二一(一九四六)年に肺結核を発症、以後十数年、病床にあった。心臓衰弱のためにこの年の一月二十九日に亡くなった。底本注に初出の『断崖』では前書は『悼舊師』とある(「旧」を正字化した)。]

 

初日さす蓮田無用の莖滿てり

 

走れずよ谷の飯場の春著の子

 

夜の吹雪オーデコロンの雫貰う

 

山の若者五人が搗きし餠伸びる

 

初釜のたぎちはげしや美女の前

 

寒きびし琴柱うごかす一つずつ

 

寒夜肉聲琴三味線の老姉妹

 

獅子頭背にがつくりと重荷なす

 

霰を撥ね石の柱のごとく待つ

 

雪晴れの船に乘るため散髮す

 

膝にあてへし折る枯枝女學生

 

卒業や尻こそばゆきバスに乘り

 

寒明けの水光り落つ駄金魚に

 

昭和穴居の煙出しより春の煙

 

襁褓はためき春の山脈大うねり

 

老殘の藁塚いそぐ陽炎よ

 

下萌えの崖を仰げば子のちんぽこ

 

紅梅の蕾を噴きて枯木ならず

 

薪能薪の火の粉上に昇る

 

火を焚くが仕丁の勤め薪能

 

  中村丘の死

 

自息黑息骸の彼へひた急ぐ

 

髮黑々と若者の死の假面

 

死にたれば一段高し蠟涙ツツ

 

立ちて凍つ弟子の燒かるる穴の前

 

手の甲の雪舐む弟子を死なしめて

 

弟子葬り歸りし生身(なまみ)鹽に打たる

 

亡者釆よ櫻の下の晝外燈

 

若者死に失せ春の石段折れ曲る

 

[やぶちゃん注:底本の編者注に、初出『断崖』の原題は『丘に捧ぐ』とする。中村丘は三鬼と同じ津山市出身で、三鬼門流の『断崖』に属していた若き俳人であったが、この年の二月十六日に自殺(短銃によるものとされる)した。享年二十一歳であったが、実はその背景には三鬼の愛人との三角関係があった。私も所持する沢木欣一・鈴木六林男共著「西東三鬼」(桜楓社昭和五四(一九七九)年刊)に詳しいが、「齋藤百鬼の俳句閑日」の三鬼と若き俳人の自死に上手く纏められているので参照されたい。]

 

汝も吠え責む春山霧の中の犬

 

うぐひすの夕べざくりと山の創

 

冷乳飮む下目使いに靑麥原

 

春のミサ雨着に生まの身を包み

 

道しるべ前うしろ指し山櫻

 

黑冷えの蓮掘りのため菜種炎ゆ

 

木の椿地の椿ひとのもの赤し

 

靑天へ口あけ餌待ち雀の子

 

一指彈松の花粉を滿月へ

 

遠くにも種播く拳閉ぢ開く

 

尺八の指撥ね春の三日月撥ね

 

牛の尾のおのれ鞭打ち耕せる

 

芽吹きつつ石より硬し樫大樹

 

代田出て泥の手袋草で脱ぐ

 

麥秋や若者の髮炎なす

 

今つぶすいちごや白き過去未來

 

吸殼を突きさし拾う聖五月

 

  中村丘の墓

 

若者の木の墓ますぐ綠斜面

 

田掻馬棚田にそびえ人かがむ

 

田を出でて早乙女光る鯖買える

 

五月の風種牛腹をしぼり咆え

 

梅雨の崖屑屋の秤光り來る

 

下向きの月上向きの蛙の田

 

毛蟲燒く梯子の上の五十歳

 

茣蓙負ひて田搔きの腰をいつ伸ばす

 

若くして梅雨のプールに伸び進む

 

黴の家振子がうごき人うごく

 

旅の梅雨クレーン濡れつつ動きつつ

 

田を植うる無言や毒の雨しとしと

 

  太郎病氣再發

 

鮮血噴く子の口邊の鬚ぬぐふ

 

[やぶちゃん注:底本年譜の同年六月の項に、『長男太郎、再喀血。入院手術のため上京。角川書店に就職のため』、勤務していた大阪女子医科大学(現在の関西医科大学)付属香里(こり)病院を辞職した旨の記載があり、八月十三日に神奈川県葉山町堀の内に転居した。]

 

眼を細め波郷狹庭の蠅叩く

 

犬にも死四方に四色の雲の峰

 

雷火野に立ち蟻共に羽根生える

 

[やぶちゃん注:「雷火野に」「らいか/のに」と読むか。]

 

失職の手足に羽蟻ねばりつく

 

艦に米旗西日の潮に下駄流れ

 

老いは黄色野太き胡瓜ぶらさがり

 

蚊帳の蚊も靑がみなりもわが家族

 

岩に爪たてて空蟬泥まみれ

 

靑萱につぶれず夫婦川渉る

 

炎天にもつこかつぎの彼が弟子

 

鰯雲小舟けなげの頭をもたげ

 

垂れし手に灼け石摑み貨車を押す

 

秋富士消え中まで石の獅子坐る

 

秋濱に描きし大魚へ潮さし來

 

  子の手術

 

太郎に血賣りし君達秋の雨

 

乳われを見んと麻醉のまぶたもたぐ

 

  津山、蒜山(ひるせん) 六句

 

龜の甲乾きてならぶ晩夏の城

 

今が永遠顏振り振つて晩夏の熊

 

赤かぼちや開拓小屋に人けなし

 

つめたき石背負ひ開拓者の名を背負う

 

痩せ陸稻へ死火山脈の吹きおろし

 

雨の粒冷泉うちて玉走る

 

老いし母怒濤を前に籾平(なら)す

 

冬海の巖も人型うるさしや

 

落葉して裸やすらか城の樹々

 

風よよと落穗拾いの横鬢に

 

赤黒き掛とうがらしそれも欲し

 

黄林に玉のごとしや握り飯

 

枯山の筑波を囘り呼ぶ名一つ

 

金の朝日流寓の寒き崖に洩る

 

北への旅夜明けの鵙に導かれ

 

城の濠涸れつつ草の紅炎えつつ

 

石の冬靑天に鵙さけび消え

 

汽車降りて落穗拾ひに並ばんかと

 

藷殼の黑塚群れてわれを待つ

 

冬耕の馬を日暮の鵙囃す

 

一切を見ず冬耕の腰曲げて

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