西東三鬼句集「變身」 昭和二十六(一九五一)年十月―十二月 一九句
■句集「変身」
(三省堂より昭和三七(一九六二)年二月二十八日発行)
昭和二十六(一九五一)年十月―十二月 一九句
夏涸れの河へ機關車湯を垂らす
病院の奧へ氷塊引きずり込む
男の顏なり炎天の遠き窓
働くや根のみの虹を地の上に
蚊の聲の糸引く聲が鐵壁へ
低き細き噴水見つつ狂者守る
松山七句
秋の航一尾の魚も現れず
月明の船中透る母呼ぶ聲
萩眞白海渡りきて子規拜む
ふるさとの草田男向うへ急ぐ秋
岩山に風ぶつかれり齒でむく栗
夜光蟲の水尾へ若者乙女の唄
飛行音に硝子よごるる北の風
靑年は井戸で水飮む百舌鳥叫ぶ
枯野の日職場出できし顏にさす
枯野の緣に熱きうどんを吹き啜る
蜘珠の糸の黄金消えし冬の暮
草枯るる眞夜中何を叫ぶ犬ぞ