彼と我 室生犀星
昨日を以って室生犀星の著作権が消滅した。
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彼と我 室生犀星
我は何者かと我が有てるものを交換せり。
その者は長き髮を垂れ
暗夜とともに沒し行けり。
常に星のごとく明滅す。
我は彼より手渡されしものを擁き
雨戶の外の暗夜をうかがふ
雨戶のそとに大なる者立てり。
我は彼とともに或物を交換す。
死のごとく苦しきものを交換す。
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『創作時代』昭和3(1923)年3月発表。底本は2012年講談社発行の室生犀星「深夜の人・結婚者の手記」所収のものを用いたが、恣意的に正字化して示した。
この
「死のごとく苦しき」「或物を交換」した「彼」とは――
「長き髮を垂れ/暗夜とともに沒し」た者、「雨戸の」「外の暗夜」に屹立する「大なる者」とは――
そして――「常に星のごとく明滅す」る「彼」とは――
言うまでもなく――芥川龍之介――である。