生物學講話 丘淺次郎 第六章 詐欺 三 擬態~(3)
桑の木に附く「虎かみきり」も頗る蜂に似て居る。これは甲蟲で、名前の通り「かみきりむし」の一種であるが、他のものとは違ひ、體に黄色と黑との粗い横縞があるから、餘程蜂と紛らはしい。その上、頭・胸・胴などの大きさの割合や、その間の縊れ具合いなども、普通の「かみきりむし」とは異なり、却つて蜂の外形に近い。蜂に似て居る昆蟲は蛾の類、甲蟲の外にもなほ幾らもある。蠅と同じ仲間の昆蟲にも、飛んで居る姿が恰も蜂の通りに見えるものが少くない。それ故かやうな種類は、子供などは常に蜂類と混同して恐れて居る。
[やぶちゃん注:「虎かみきり」鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ亜目ハムシ上科カミキリムシ科 Cerambycidae のトラカミキリ Xylotrechus chinensis。Fukutomi design office の島根県「福光村・昆虫記」の「トラカミキリ/トラフカミキリ(虎天牛/虎斑天牛)」によれば、『トラカミキリは、クワの害虫として知られ、トラフカミキリとも呼ばれています。体は黒色で、全体に黄褐色から赤褐色と、黒色の短毛で被われています。頭部と胸部前側が黄色く、上翅にハや八の字の黄色い紋があります。この黒と黄色の虎模様から名が付けられています』。『全体はハチによく似ていますが、上翅の模様には少し無理がある様です。しかし頭部側から見ると、黄色い複眼の感じ,胸部前側の黄色の斑,短めの触角など大型のスズメバチに見えます。上翅中央から斜めに延びる黄色い紋はもう少し似ていて良い気がしますが、前側を細く見せる模様でしょうか? そう考えるとセグロアシナガバチに少し似て見えます』(一部の読点を消去した)とあり、画像もある。……ああ、だめだ、こりゃ! 蜂にしか見えんて。……なお、同リンク先にリンクされている同HP内の「ハチ,アリ,毒のある仲間などに擬態している昆虫(標識的擬態)」の画像類も本章の読解に極めて有益である。必見!]
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