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2013/01/13

句集「今日」 昭和二十三(一九四八)年 一二〇句

■句集「今日」
(天狼俳句会より昭和二七(一九五二)年三月一日発行)

昭和二十三(一九四八)年 一二〇句

陳氏來て家去れといふクリスマス

クリスマス馬小屋ありて馬が住む

クリスマス藷一片を夜食とす

除夜眠れぬ佛人の猫露人の犬

猫が鷄殺すを除夜の月照らす

蠟涙の冷えゆく除夜の闇に寢る

切らざりし二十の爪と除夜眠る

朝の琴唄路に鼠が破裂して

うづたかき馬糞湯氣立つ朝の力

寒の夕燒雄鷄雌の上に乘る

老婆來て赤子を覗く寒の暮

木枯の眞下に赤子眼を見張る

百舌鳥に顏を切られて今日が始まるか

誰も見る焚火火柱直立つを

犬の蚤寒き砂丘に跳び出せり

北風に重たき雄牛一歩一歩

北風に牛角(ぎゆうかく)を低くして進む

靜臥せり木枯に追ひすがりつつ

木枯過ぎ日暮れの赤き木となれり

燈火なき寒の夜顏を動かさず

寒の闇ほめくや赤子泣く度に
朝若し馬の鼻息二本白し

寒の地に太き鷄鳴林立す

寒の晝雄鷄いどみ許すなし

電柱の上下寒し工夫登る

寒の夕燒架線工夫に翼なし

電工が獨り罵る寒の空

寒星の辷るたちまち汝あり

數限りなき藁塚の一と化す

醉ひてぐらぐら枯野の道を父歸る

汽車全く雪原に入り人默る

雪原を山まで就かのしのし行け

  波郷居

燒原の横飛ぶ雪の中に病む

マスク洩る愛の言葉の白き息

巨大なる蜂の巣割られ晦日午後

友搗きし異形の餅が腹中へ

女呉れし餠火の上に膨張す

膝そろへ伸びる餠食ふ女の前

餠食へば山の七星明瞭に

餠えお食ひ出でて深雪に脚を插す

暗闇に藁塚何を行ふや

春山を削りトロツコもて搬ぶ

雨の雲雀次ぎ次ぎわれを受渡す

祝福を雨の雲雀に返上す

雨の中雲雀ぶるぶる昇天す

梢には寒日輪根元伐られつつ

辨當を啖ひ居り寒木を伐り倒し

横たはる樹のそばにその枝を焚く

蓮池にて骨のごときを摑み出す

蓮池より入日の道へ這ひ上る

春の晝樹液したたり地を濡らす

麥の丘馬は輝き沒入す

暗闇に海あり櫻咲きつつあり

眞晝の湯子の陰毛の光るかな

靴の足濡れて大學生と父

靴の足濡れて大學生と父

不和の父母胸板厚き子の前に

體内に機銃彈あり卒業す

野遊びの皆伏し彼等兵たりき

靑年皆手をポケツトに櫻曇る

岩山に生れて岩の蝶黑し

粉黛を娯しむ蝌蚪の水の上

春に飽き眞黑き蝌蚪に飽き飽きす

[やぶちゃん注:「飽き飽き」の後の「飽き」は底本では踊り字「〱」。但し、初出である同年の『天狼』五月号の表記は上記の通りの正字表記である。]

天に鳴る春の烈風鷄よろめく

烈風の電柱に咲き春の里

冷血と思へばおぼろ野犬吠ゆる

蝌蚪曇るまなこ見ひらき見ひらけど

蝌蚪の上キューンキューンと戰鬪機

[やぶちゃん注:「キューンキューン」の後の「キューン」は底本では踊り字「〱」。]

一石を投じて蝌蚪をかへりみず

くらやみに蝌蚪の手足が生えつつあり

黑き蝶ひたすら昇る蝕の日へ

日蝕や鷄は内輪に足そろへ

日蝕下だましだまされ草の上に

鹽田や働く事は俯向く事

鹽田のかげろふ黑し蝶いそぐ

鹽田の足跡夜もそのままに

鹽田の黑砂光(て)らし音なき雷

蚊の細聲牛の太聲誕生日

麥熟れてあたたかき闇充滿す

蟹が眼を立てて集る雷の下

梅雨の窓狂女跳び下りたるままに

梅雨の山立ち見る度に囚徒めく

ペコペコの三味線梅雨の月のぼる

ワルツ止み瓢簞光る黴の家

黴の家泥醉漢が泣き出だす

黴の家去るや濡れたる靴をはき

惡靈とありこがね蟲すがらしめ

滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し

蟹と居て宙に切れたる虹仰ぐ

雲立てり水に死にゐて蟹赤し

かくさざる農夫が沖へ沖へあるく

海を出で鍬をかつぎて農夫去る

狂女死ぬを待たれ南瓜の花盛り

晩婚の友や氷菓をしたたらし

ごんごんと梅雨のトンネル闇屋の唄

枝豆の眞白き鹽に愁眉ひらく

枝豆やモーゼの戒に拘泥し

月の出の生々しさや涌き立つ蝗

こほろぎが女あるじの黑き侍童

  假寓

甘藷(いも)を掘る一家の端にわれも掘る

炎天やけがれてよりの影が濃し

靑年に長く短く星飛ぶ空

炎天の墓原獨り子が通る

モナリザに假死いつまでもこがね蟲

秋雨の水の底なり蟹あゆむ

  悼石橋辰之助二句

友の死の東の方へ歩き出す

涙出づ眼鏡のままに死にしかと

紅茸を怖れてわれを怖れずや

紅茸を打ちしステツキ街に振る

踏切に秋の氷塊ひびきて待つ

天井に大蛾張りつき假の家

耕せり大秋天を鏡とし

父と子の形同じく秋耕す

老農の鎌に切られて曼珠沙華

稻孕みつつあり夜間飛行の燈

赤蜻蛉分けて農夫の胸進む

豐年や松を輪切にして戻る

豐年や牛のごときは後肢(あとあし)跳ね

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