竹 萩原朔太郎 (「月に吠える」版)
竹
光る地面に竹が生え、
靑竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より纖毛が生え、
かすかにけぶる纖毛が生え、
かすかにふるへ。
かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
靑空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。
[やぶちゃん注:詩集「月に吠える」初版(大正六(一九一七)年二月感情詩社・白日社出版部共刊)より。「月に吠える」冒頭の「竹とその哀傷」の四番目に位置する、恐らく、最も人口に膾炙する萩原朔太郎の「竹」の詩である。「竹とその哀傷」には、この一つ前、三番目にやはり、「竹」という同題の詩が配されているが、かつて高校の国語教科書などに採録されたのは、圧倒的にこちらである。私も何度か教授したが、私は好きな詩であるだけに、授業するのが嫌だった。美事に病的なイメージは、健全なる高校生の多くには――圧倒的に――変態的な詩人としての朔太郎像を植え付けるのに役立っただけだからである。――真に詩的な世界に遊び得る感性を持ち、青春そのものが、否、人間存在そのものが、実は反社会的非社会的性質を帯びていることを敏感に嗅ぎ分けることの出来た少数の生徒の誰彼だけが――この詩を愛した――]
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