西東三鬼 拾遺(抄) 昭和一二(一九三七)年
昭和一二(一九三七)年
病再び發しぬ。眠れぬ夜々
わが胸を壓するはわが墓なり。
山の樹の靑きを樵れよわが墓に
わが墓の草實る頃骨朽ちむ
山の雷わが墓に來てうちくだけ
[やぶちゃん注:『傘火』二月号の連作三句。肺浸潤の再発らしいが、年譜には記載がない。]
黑
兵隊が征くまつ黑い汽車に乘り
黑い道喇叭鼓隊に灼け爛れ
僧を乘せしづかに黑い艦が出る
黑雲を雷が裂く夜のをんな達
眞夜中の黑い電柱抱いて嘔く
[やぶちゃん注:『京大俳句』八月号。「旗」の「黑」三句の初出形。]
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