西東三鬼 拾遺(抄) 昭和三十五(一九六〇)年
昭和三十五(一九六〇)年
甘藷刺すごとく少年、党首刺せり
星赤し暗殺國の野分浪
[やぶちゃん注:二句ともに同年の『断崖』十月号所収。無論これは同年十月十二日に日比谷公会堂に於いて演説中の日本社会党委員長浅沼稲次郎が、十七歳の右翼少年山口二矢(おとや)に刺殺されたテロ事件詠。山口は翌十一月二日、東京少年鑑別所内で、支給された歯磨き粉で壁に指で「七生報国 天皇陛下万才」と記し、シーツを裂いて繩状にしたものを用いて天井の裸電球を包む金網に掛けて縊死した(自死時も満十七歳)。右翼団体は盛大な葬儀を行い、山口を英雄視したが、沢木耕太郎の「テロルの決算」によれば、山口はテロの標的として浅沼委員長のほか河野一郎や野坂参三などの政治家もリストに加えており、「大東亜戦争」批判を行ったことを理由に三笠宮崇仁親王まで狙っていたともいう(以上の山口二矢の記載はウィキの「山口二矢」に拠った)。]
うちそとに蟲の音滿ちて家消えぬ
いわし雲折られきらら波女一人
美(よ)き踵に水來てわかれ秋の渚