沖を眺望する 萩原朔太郎 (初出形)
沖を眺望する
ここの海岸には草も生えない
なんといふさびしい海岸だ
かうしてしづかに浪を見て居ると
浪の上に浪がかさなり
浪の上に白い夕方の月が浮んでくるやうだ
つめたい砂の上を風が吹いて通るやうだ
われひとり出でて松の木をながめ
さびしき海岸の松の木をながめ
空に浮べる島と舟とをながめ
私はながく手足を伸ばして寢ころんで居る
ながく呼べどもかへらざる幸福の幽靈を求め
沖に向ひて遠く悲しく眺望して居るのだ。
[やぶちゃん注:『感情』第二年第二号 大正六(一九一七)年二月号。]
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