槍の野邊 大手拓次
槍の野邊
うす紅い晝の衣裳をきて、お前といふ異國の夢がしとやかにわたしの胸をめぐる。
執拗な陰氣な顏をしてる愚(おろ)かな乳母(うば)は
うつとりと見惚れて、くやしいけれど言葉も出ない。
古い香木のもえる煙のやうにたちのぼる
この紛亂(ふんらん)した人間の隱遁性と何物をも恐れない暴逆な復讎心とが、
温和な春の日の箱車(はこぐるま)のなかに狎(な)れ親しんで
ちやうど麝香猫と褐色の栗鼠(りす)とのやうにいがみあふ。
をりをりは麗しくきらめく白い齒の爭鬪に倦怠の世は旋風の壁模樣(かべもやう)に眺め入る。