戰場での幻想 萩原朔太郎 (「宿命」版)
戰場での幻想
機關銃よりも悲しげに、繫留氣球よりも憂鬱に、炸裂彈よりも殘忍に、毒瓦斯よりも沈痛に、曳火彈よりも蒼白く、大砲よりもロマンチツクに、煙幕よりも寂しげに、銃火の白く閃めくやうな詩が書きたい!
[やぶちゃん注:「宿命」(昭和一四(一九二九)年創元社刊)より。初出よりも、よりそのままの状態で比喩を投げ出したままにした結果、詩想の先鋭さはより噴出していると言える。但し、この決定稿が、初出で朔太郎の訴えたかったはずの――「敵意と感傷にみち」ている「詩」を書きたいのだ!――という死を賭した絶叫として「宿命」の読者に聴こえたかどうかは、これ、やや疑問である気がする。特に「大砲よりもロマンチツクに」という比喩は寧ろ、仮想の戦場の持っていたはずの血や肉の臭いを払拭してしまい、人によっては詩人の虫のいい身勝手な懇願のように思われてしまう、この現実の朔太郎の肉声が響いて終わるというのを、少なくとも私は好まない。そういう意味で初出のコーダ「見よ、鐡製の兜を被つて、兵士は銃の先に劍を突けてる。」の方が遙かに――詩となってる――と私は思うのである。]

