蛙の死 萩原朔太郎 (「月に吠える」版)
蛙の死
蛙が殺された、
子供がまるくなつて手をあげた、
みんないつしよに、
かわゆらしい、
血だらけの手をあげた、
月が出た、
丘の上に人が立つてゐる。
帽子の下に顏がある。
幼年思慕篇
[やぶちゃん注:詩集「月に吠える」初版(大正六(一九一七)年二月感情詩社・白日社出版部共刊)より。朗読の観点から言うと、初出は「可愛いらしい」及び「血だらけの手をあげた。」の末尾の句点が「かわゆらしい」及び「血だらけの手をあげた、」よりもよく、こちらは「丘の上に人が立つてゐる。」の「ゐる。」が「居た、」よりも時制とモンタージュの効果が格段によい。また、末尾の「幼年思慕篇」という添書も朗読では読了後に有意な沈黙を置いて発すると、非常に効果的である。以上から私は、本詩の朗読には両者をカップリングした、
蛙の死
蛙が殺された、
子供がまるくなつて手をあげた、
みんないつしよに、
可愛いらしい、
血だらけの手をあげた。
月が出た、
丘の上に人が立つてゐる。
帽子の下に顏がある。
幼年思慕篇
を薦めたい。私は詩の朗読とは朗読する俳優による翻案であると思っている。従って、私にとってはこうした操作も当然の如く、あり、なのである。]