白い朔太郎の病氣の顏 萩原朔太郎 (「地面の底の病氣の顏」初出形)
白い朔太郎の病氣の顏
地面の底に顏があらはれ、
白い病人の顏があらはれ。
地面の底のくらやみで、
うらうら草の莖が萠えそめ。
鼠の巢が萠えそめ、
巢にこんがらかつて居る、
かずしれぬ髮の毛がふるへ出し、
冬至のころの、
さびしい病氣の地面から、
ほそい靑竹の根が生えそめ、
生えそめ、
それがじつにあはれふかく見え、
けぶれるごとくに見え、
じつにじつにあはれふかげに見え。
地面の底のくらやみに、
白い朔太郎の顏があらはれ
さびしい病氣の顏があらはれ。
[やぶちゃん注:『地上巡禮』第二巻第二号 大正四(一九一五)年三月号所収。後に「月に吠える」の巻頭を飾ることになるこの原形が「朔太郎」という詩人の名をそのままに詠んでいたことを知る者は、恐らく朔太郎のファンであっても思わず、たじろぐものと思う。朔太郎はやはり、只者ではないのである。――実は前の「竹」の注で述べた、『真に詩的な世界に遊び得る感性を持ち、青春そのものが、否、人間存在そのものが、実は反社会的非社会的性質を帯びていることを敏感に嗅ぎ分けることの出来た少数の生徒の誰彼』が、まさに私の朔太郎の「竹」の、初出版及び決定稿版のブログでの公開を見、本詩をリクエストして来た。これはもう、即座にせずんばならず――]