耳嚢 巻之六 いぼをとる呪の事
いぼをとる呪の事
いぼ多く出來て、愁ふる人あり。多少にかぎらず、雷の鳴る時、右光り音を相圖に、みご箒(はうき)にてはけば、必ずなをる事奇々妙々なりと、人の語りぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:感じさせない。呪(まじな)いシリーズであるが、これ、実は十三話前の「いぼをとる呪の事」、
いぼをとる呪の事
雷の鳴る時、みご箒(はうき)にて、いぼの上を二三遍はき候得(さふらえ)ば、奇妙にいぼとれ候由。ためし見しに違はざるよし、人のかたりぬ。
の話柄のほぼ同内容の重出である。……百話の致命的な残念な瑕疵で御座る、根岸先生……どうなさってしまわれた?……
・「いぼ多く出來て」これは、所謂、魚の眼とは異なり、一般的に手足や顔にできる疣で、削ったりしても増殖し、放置してもどんどん増えるタイプの疣を指している。これは尋常性疣贅(ゆうぜい)と呼ばれる、ヒトパピローマ・ウイルス二型・二十七型・五十七型の感染で生じるウィルス性皮膚疾患である。
・「みご箒」「みご」とは「稭」「稈心」などと表記し、「わらみご」、稲穂の芯のこと。藁の外側の葉や葉鞘をむき去った上部の茎。藁しべのことを言う。それを集めて作った箒のこと。
■やぶちゃん現代語訳
疣(いぼ)を取る呪いの事
疣が多く出来て、非常に悩む人がままあるが――さても、その疣の発生の多少に限らぬのであるが――雷の鳴る時、その雷電がピカリ!――一閃し――ドッシャン! ガラガラッツ!――と音がしたのを合図に――すかさず!――稈心箒(みごほうき)を以って掃けば――必ず治ること、これ、奇々妙々で御座る――と、さる人の語って御座った。