竹 萩原朔太郎 (初出形)
竹
新光あらはれ、
新光ひろごり。
光る地面に竹が生え、
靑竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より纎毛が生え、
かすかにけぶる纎毛が生え、
かすかにふるゑ。
かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節(ふしぶし)りんりんと、
靑空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。
祈らば祈らば空に生え、
罪びとの肩に竹が生え。
――大正四年元旦――
[やぶちゃん注:『詩歌』第五巻第二号 大正四(一九一五)年二月号所収。「纎」及び「ふるゑ」はママ。人口に膾炙した次に示す「月に吠える」版とは大きく構成が異なることに着目したい。詩全体が教会の額縁の中にある。それは、丁度、あのタルコフスキイの「ノスタルジア」のエンディングのようである。イタリアはトスカーナ、シエナのサンガルガノ礼拝堂跡の中に、ロシアの田舎屋が出現し、そこに、温泉を蠟燭を灯して渡りきることで地球を救って斃れた「狂人」ゴルチャコフが、同じ志半ばに焼身自殺した「狂人」ドメニコの身代わりの犬ゾイとともに地に「根を張って」居る――。初出形はその額縁のカトリック的響きによって、聖壇画の趣を持っていて、知られた「竹」の先鋭化した「病性」とは全く異なった「相」を呈していることに着目されたい。私はこれはこれで、非常に好きである。]

