殺人事件 萩原朔太郎 (初出形)
殺人事件
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裝をきて、
戀びとの窓からしのびこむ、
床(ゆか)は晶玉。
ゆびとゆびとのあひだから、
まつさをの血がながれて居る、
かなしい女の屍体のうへで、
つめたいきりぎりすが鳴いて居る
九月上旬(はじめ)の殺人。
九月上旬(はじめ)のある朝、
探偵は玻璃の衣裝をきて、
街の十字巷路(よつつぢ)を曲つた、
十字巷路(よつつぢ)に秋のふんすゐ、
はやひとり、探偵はうれひを感ず。
みよ、遠い寂しい大理石の歩道を、
曲者(くせもの)はいつさんにすべつて行く。
――一九一四、八、一二――
[やぶちゃん注:『地上巡禮』創刊号 大正三(一九一四)年九月号所収。]
« 西東三鬼 拾遺(抄) 昭和二十四(一九四九)年 | トップページ | 殺人事件 萩原朔太郎 (「月に吠える」版) »

