ホワイト・デー
僕は今年、誰からもバレンタイン・デーのチョコレートを貰わなかったのだが、思い出して見ると、最初に1970年に貰ってから、僕はずっとチョコレートを貰い続けてきたのだった。――教員時代は仕事柄、生徒からよく貰った。20代の頃は風呂敷包みで2山という時もあった。――亡き母は必ず呉れた。――しかし今年は妻からもなかった。――これは「欲しかった」という謂いではない。――そもそも私はチョコレートが好きではない。貰うと所詮「義理」のそれらを、しかし「義理」で一つは必ず齧っては妻(妻は自分の贈ったそれさえ)や母に体よく消費して貰っていたのであった。――しかし――今年はわくわくしているのだ。――何に?――ホワイト・デーにあげたい人が何人もいるから。――夫を亡くした幼馴染みの「やっちゃん」……母の死後、何かと父の面倒を見てくれている近所のおばさん等々……心から贈れると思うと、これ、何だか、わくわくするんである――ヘンなおじさんだなあ……僕も――
43年の僕の素直な初めての恩返しである――