耳嚢 巻之六 あら釜新鍋の鐡氣を拔事
あら釜新鍋の鐡氣を拔事
鍋にても釜にても、其尻へ左のごとく墨にて十字を引(ひき)、其墨の四方とまりへ、西といふ文字を三字づゝ書て用ゆれば、鐡氣出ざる事奇々妙々の由、人の語りぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:呪(まじな)いシリーズ連関。疣取りから、新品の釜や鍋の鉄気=金気(かなっけ)、金属臭を取り除く方法である。底本には上記のような釜の絵が載るのであるが、これ、訳が分からない。なんじゃこりゃ? である。察するに、鍋の尻、此処の部分に、という意味で鍋を描きながら、その後を描き忘れたという感じか。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版の、如何にも分かり易い当該の呪いの挿絵を現代語訳の後に載せた。但し、本文には「其墨の四方とまりへ」とあるから、本来なら図の上方(北位置)の「墨の」「とまりへ」も「西」「三字」が恐らくは南位置のそれと真逆で描かれていないとおかしい。
・「出ざる」ママ。岩波のカリフォルニア大学バークレー校版も同じであるが、ここは「出づる」でなくてはおかしい。
■やぶちゃん現代語訳
新釜・新鍋の金気を抜く事
新品の鍋でも釜でも、その尻へ左の如く、墨で十字を引き、その墨の四方の留めの位置へ、西という文字を三字ずつ書いて使用すれば、鉄気(かなっけ)が抜け出ること、これ、信じ難いほどにて、妖しくも奇妙なる事実の由、人が語って御座った。