一言芳談 一〇八
一〇八
或上人、同法を誡(いまし)めて云、物なほしがり給ひそ、儲(まう)くるはやすくて、捨つるが大事なるに、と云々。
〇捨つるが大事、執(しふ)がきれかぬるなり。さればむかしも鉢を愛して餓鬼となり、衣を愛して蛇(じや)となり、笋(たけのこ)を愛して蟲となり、花を愛して蝶となれるたぐひおほかり。
[やぶちゃん注:されば、人の愛欲、これ煩悩の最たるものなればこそ、我、餓鬼とも蛇とも蟲とも蝶ともなり侍る所存なれ。愛欲を鮮やかに捨つるは、人たらんを酷く捨つることにほかならずや。況や、餓鬼・蛇・蟲・蝶とならんには若かじ。
「同法」仲間の念仏者。]