秋 大手拓次
秋
ものはものは呼んでよろこび、
さみしい秋の黄色い葉はひろい大樣(おほやう)な胸にねむる。
風もあるし、旅人もあるし、
しづんでゆく若い心はほのかな化粧づかれに遠い國をおもふ。
ちひさな傷のあるわたしの手は
よろけながらに白い狼をおひかける。
ああ 秋よ、
秋はつめたい霧の火をまきちらす。
[やぶちゃん注:一行目、不審。校合すべき所載本がないのではっきりとは言えないが、これは、
ものはものを呼んでよろこび、
の誤植ではなかろうかと思われる。
ネット上で検索をかけた結果、「日本詩人愛唱歌集 詩と音楽を愛する人のためのデータベース」内に「藍色の蟇」(白鳳社版「大手拓次全集」の第一巻及び第二巻)があり、そこでは「ものを」となっているのを見出した。
以下に「ものを」とした全詩を再度、掲げておく。
秋
ものはものを呼んでよろこび、
さみしい秋の黄色い葉はひろい大樣(おほやう)な胸にねむる。
風もあるし、旅人もあるし、
しづんでゆく若い心はほのかな化粧づかれに遠い國をおもふ。
ちひさな傷のあるわたしの手は
よろけながらに白い狼をおひかける。
ああ 秋よ、
秋はつめたい霧の火をまきちらす。
但し、私は白鳳社版「大手拓次全集」を所持しておらず、現時点では確認したわけでもないことは断っておく。]