船室から 萩原朔太郎 (アフォリズム集「新しき欲情」版)
船室から 嵐、嵐、浪、浪、大浪、大浪、大浪。傾むく地平線上昇する地平線、落ちくる地平線。がちやがちや、がちやがちや。上甲板へ、上甲板へ。鎖(ちえん)を卷け、鎖(ちえん)を卷け。突進する、突進する水夫ら。船室の窓、窓、窓、窓、傾むく地平線、上昇する地平線。大洪水、大洪水。風、風、風。扉(どあ)を閉めろ、扉(どあ)を閉めろ。ほひゆーる、ほひゆーる、ほひゆーる、る、る、る…………(暴風雨の幻想として)
[やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年四月アルス刊のアフォリズム集「新しき欲情」の「第五放射線」より。「傾むく地平線上昇する地平線」はママ。底本では、このアフォリズムは前に「228」のナンバーを持つ。これは後に後掲するような形に改稿されて、詩集「宿命」(昭和一四(一九二九)年創元社刊)に散文詩として採録されている。]

