道心 大手拓次
道心
七頭の怪物のやうな形をして、わたしの道心は呼吸してゐる。
洪水の喧囂、洪水の騷亂、
わたしは死骸となつた童貞のそばに、
白い布に包まれて母の嘆きをおびてゐる。
たはむれに水蛇は怪しい理智の影に逃げまはる。
世界は黄昏(たそがれ)の永遠を波立たせる。
[やぶちゃん注:「喧囂」は「けんがう(けんごう)」で、喧喧囂囂。がやがやとやかましいこと、そうすること、また、そのさま。
私はこの、
わたしは死骸となつた童貞のそばに、
白い布に包まれて母の嘆きをおびてゐる。
のシークエンスが好きで堪らない。]