耳嚢 巻之六 酒量を鰹によりて增事
酒量を鰹によりて增事
鰹魚(かつを)をさしみに作り、盃の内に如形(かたのごとく)置(おき)て、盃(さかづき)より舌のごとく出(いだし)候處へ聊(いささか)燒鹽(やきじほ)を置(おき)て、右鰹の一ひらを食し、酒を呑(のむ)に、魚味淡味にして格別に酒量を增(ます)と、人の語りぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:これも呪(まじな)いではない、美味い酒の肴であるわけだが、当時の性質としてはやはり呪(まじな)いと変わらないものであったはずであるから、前項同様、強く連関すると言ってよいであろう。標題の「增事」は「ますこと」と訓じている。「お酒の販売と講座
静岡 丸河屋酒店」のHP内の「カツオ(ショウガ正油)といろんな酒類の相性1」及び「カツオの刺身とお酒の相性2 醤油を使わない場合」には、多様な酒類と鰹の相性を実験されておられ、誠に面白い。ご覧あれ。因みに私は……丸ごと一尾でも平らげてしまう鰹のたたき命男である。
■やぶちゃん現代語訳
酒量が鰹によって増す事
鰹(かつお)を刺身に作って、盃(さかづき)のうちに普通にただ置いて――但し、一方の端を盃より舌のようにぺろっと出して、そこに少量の焼き塩をつけ置いた上、まず、この鰹の一片を食した後に酒を呑むと、魚味は全く以って生臭くなく、淡い味乍ら、これ、格別にその後の酒量を増すとのこと、さる御仁が語って御座った。
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