沢庵宗彭「鎌倉巡禮記」 6
一たびかしこに往て一香をたき、報恩の志をとげ、其外諸祖の塔を燒香順禮せばやとて、寛永十年癸の酉の仲冬の初に江府を出れば、旅より旅にたつ衣手さむきあかつき、左は江水漠々として白く、右にむかへば富士の根しろし。しのゝめも明ゆくそらに村寺の鐘を聞て、
曉出江城對士峰 路邊水白照衰容
征人馬上知繼夢 道者緩敲村寺鐘
[やぶちゃん注:書き下す。
曉に江城を出でて士峰に對す
路邊水白うして衰容を照らす
征人 馬上 知 夢を繼ぎ
道者 緩(かる)く敲く 村寺の鐘
底本では「出て」、「繼く」、「緩敲く」である。]
旅人の朝立てゆく馬の上に みつゝや宿に殘しつる夢
またさめぬ此世の夢に夢をみて いやはかなゝる身のゆく衞かな
旅衣かたしく袖に入る夢は 古郷人のよるのこゝろか
旅衣かりねの夢は夢の世を 見ならはしともしらてはかなき
[やぶちゃん注:「寛永十年癸の酉」寛永十(一六三三)年癸酉(みずのととり)。]

