蛇の道行 大手拓次
蛇の道行
わたしの眼を、ふところに抱(だ)いた眞珠玉のやうに暖めて、
懶惰の考へ深い錆色をした蛇めが
若いはちきれるやうな血をみなぎらして蠟色の臥床(ふしど)にありながら、
おほやうな空の叢に舞ふ光の魂を招いたのだ。
それも無理もない話だ。
見たまへ、お互ひが持つてゐる慾の火壺のなかには可愛らしい子蛇と光りの卵が無心にふざけてる。
だんだんに子供たちの眼がふくらんできて、
ありもしない翅をはたつかせた。
そのたびに幻影はいきほひよくをどつた。
いたづらな神樣は
かうして二人に罪と惠みの樂しみを料理してくれた。