慰安 大手拓次
慰安
惡氣のそれとなくうなだれて
慰安の銀綠色の塔のなかへ身を投げかける。
なめらかな天鵞絨色(びろうどいろ)の魚よ、
忍從の木陰(こかげ)に鳴らす timbale(タンバアル)
祕密はあだめいた濃化粧(こいけしやう)して温順な人生に享樂の罪を贈る。
わたしはただ、空(そら)に鳴る鞭のひびきにすぎない。
水色の神と交遊する鞭にすぎない。
[やぶちゃん注:底本では「天鵞絨色」のルビは「ろうどいろ」であるが、意味からも、ルビの植字の割付位置からも、「び」の脱字であることが明白であるので補った。「timbale(タンバアル)」はフランス語で打楽器のティンパニのこと。ティンパニは英語では“timpani”、本来の語源であるイタリア語では“timpani ”又は“timpano”と綴る。]