耳囊 卷之六 吐藥奇法の事
吐藥奇法の事
醫書にもあるや、藥店(やくてん)にも有之(これある)由。越前眞桑瓜(まくはうり)の蔕(へた)を飮(のま)すれば、早速吐(と)をなす事妙の由。是又一時人を救ふの助けと、聞(きき)しまゝ爰に記しぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:民間療法及び植物の蔕の薬方、直連関。症状としてのしゃっくりと嘔吐も現象的には連関して見える。
・「越前眞桑瓜」スミレ目ウリ科キュウリ属メロンの変種マクワウリ Cucumis melo var. makuwa の、白色系品種の石川県原産のナシウリ(梨瓜:「中奥梨瓜」「加賀梨瓜」とも呼ばれ、果皮・果肉ともに白色のもの。)か。
・「早速吐をなす」催吐剤である。実際の漢方薬として現在も存在する。株式会社JAM のウェブサイト wellba の東洋医学・内科・理学診療科の松柏堂医院院長中村篤彦の筆になる「医食同源ア・ラ・カルト」内にある「瓜(蔕)―催吐作用と瀉下作用―」(「瀉下」は「しゃげ」と読む。下剤のように医学的に下痢を起こさせるものの効能を言う)に、『マクワウリの未熟果は苦く、その苦み成分:メロトキシンがとくに多いヘタは先述のように催吐作用や瀉下作用があります。単独で一物瓜蒂湯、納豆や小豆と合わせた瓜蒂散などがあります。乾燥した納豆と小豆の粉末、それにこの瓜蔕、なんだか想像しただけで吐きそうなクスリです』とある。「一物瓜蒂湯」は「いちもつかていとう」と読む。
■やぶちゃん現代語訳
吐薬(とやく)の奇法の事
医書にも記されておるものか、薬屋にも普通に置かれておる由。
越前国特産の真桑瓜の蔕(へた)を服用させると、即座に嘔吐が起こること、これ、絶妙の由。
これもまた、危急の際に人を救う一助ともなろう存じ、聴いたままに、ここに記しおくことと致す。