「エビングハウスの夢」と書く夢
四、五日前の夢。
夢の中にノートがある。
そこに僕は
「エビングハウスの夢」
と鉛筆で書く――
*
という、それだけの夢だったのだが、目覚めた直後、僕はこれは僕の好きな「性的倒錯」で知られた心理学者クラフト・エビングのアナグラムだろうと思い、放っておいたのである。
ところが、ふと、何か違和感があって、先程、調べてみたところが、エビングハウスなる心理学者が実在した。ドイツの心理学者で、子音・母音・子音から成る無意味な音節を記憶し、その再生率を調べ、「忘却曲線」という中・長期記憶に関わる忘却を表す曲線の提唱者であることを知った。
私の書斎には短期記憶や長期記憶に関わるジリアン・コーエンの著作や(巻頭にエビングハウスの英語名が記されていた)、二十代の頃に蒐集した記憶関連の論文類が幾つかあるから、その中で読んで知っていたのかも知れない――が、今やそれこそ完全に「忘却」している――名前だったのである。
何だか、それも不思議、また夢もただシンプルで不思議、であった。
僕の脳が僕の忘却――脳萎縮によるそれを――押し留めようとでも、したのであろうか?……
« 北條九代記 北條九代記 千葉介阿靜房安念を召捕る 付 謀叛人白状 竝 和田義盛叛逆滅亡 〈和田義盛の嘆願と義憤そして謀叛の企て〉 | トップページ | 鬼城句集 春之部 鶸 »